山陰海岸ジオパーク野外学習ハンドブック(鳥取砂丘を中心にして)

砂丘の微地形

位置

天然記念物鳥取砂丘の全域

選定理由

鳥取砂丘を代表する風紋などの微地形は,砂丘を訪れた日の気象条件等により毎回異なった姿を楽しませてくれる。さまざまな微地形について紹介する。

地形地質の意義

風による砂の移動は,降雨とのかねあいで独特の微地形を創り出す。温暖湿潤気候帯に位置する海岸砂丘だからこそ,しばしば観察される特異な微地形がある。

観察者の対象

小学生~一般まで。

解説

1)風紋(図2,3)
 風速が毎秒5m以上の風が吹くと,砂が移動を開始して風紋が形成される(図2)。その波長は3cm~15cm,波高は数mm~1cmが多い。構成する砂粒の粒径や,風の継続時間,風速に応じて,風紋の規模は変化する。風紋は風上側斜面が緩やかで,風下側が急な非対称断面を示し,時間とともに風下側にゆっくりと移動する(図3)。その結果,模様は時々刻々と変化する。粗い砂(黒色の岩片であるこが多い)は,一般に風紋の峰(クレスト)部に集積し,流水で形成される砂漣(ripple)とは異なる。


図1 風紋(赤)と砂簾(緑)が良く観察される場所


図2 風紋(wind ripple)の例


図3 風紋の前進を示す模式図(風向きは,左から右),J.R.L Allen(1985)より引用(一部改変)

2)風成横列シート(aeolian transverse sheets)と砂柱
 降雨後に風速毎秒12m以上の強い風が吹くと,波長20mほどの縞模様が砂丘中にあらわれる(図4,5)。縞模様は風向きに対して必ず直行方向(横列方向)にのびる。この模様は「湿った砂からなる暗い色の帯」と「乾いた砂が堆積した明るい色の帯」の繰り返しで構成される。湿った帯は侵食域で,ここから飛ばされた砂が渋滞して堆積し,明色帯を形成する。この微地形が誕生するのは,5~10分間ほどの短い時間である。また日射が続くと数時間のうちに縞模様景観は消える。暗色帯の砂が乾燥するためである(小玉・藏増,2010)。
 明色帯の断面形は,風上側に高さ10cm前後の侵食急斜面が形成され,風紋が観察される風下側は,なだらかに下り暗色帯へと漸移する(図6)。風上側に形成される峰(クレスト)部分に粗い砂が集積し,しばしば黒色の筋をなす。この黒筋は明暗の縞模様が消えてもしばらくの間,残存する。


図4 風成横列シート(1999年11月10日撮影)

図5 風成横列シート(1999年11月17日撮影)図6 風成横列シートの模式断面図

 暗色帯にはしばしば砂柱(図7)が観察される。砂柱は長さ5 ~25 cm,高さ1~2 cmの侵食微地形である。砂柱の風上側には貝殻や木片,あるいはシルトの薄層(クラスト)があり,風食に対して抵抗となり,風下側の砂が侵食をまぬがれ,三角錐状の独特の微地形景観が形成される。
  風成横列シートと砂柱は晩秋~冬季~早春にかけて観察されることが多い。夏~秋の台風通過後にもしばしばあらわれる。


図7 砂柱景観(音田研二郎氏撮影)
砂柱形成時の強風の風向は,右手奥から左手手前。

3)クラスト(surface crust)
 クラストは,晩秋~冬季~早春にかけて観察されることが多い。クラストとは,降雨と強風により砂丘表面に形成されるシルトの薄層(一般的には厚さ1 mm~3 mm)を指す。シルト層は砂層と比べ凝集力が高く,そのため乾燥すると砂丘表面が灰色の皮殻(クラスト)に覆われ,風紋は形成されない(図8)。クラストが破壊され砂が風食を受ける過程では,シルトの薄層が板状に残り,特異な景観をなす(図9)。冬季~早春の風物詩である。

図8 灰色のクラスト 図9 クラスト風食過程のひと
 クラストは風向き砂面に形成されるため,風紋の背面をクラストが覆う独特な景観も観察される(図10左)。ケカモノハシの枯れた茎を支えとして膜状に発達することもある(図10中央)。また杭などの障害物があるとその付け根の風上側に指数曲線的な砂の付着ならびにその表面に発達するクラストが観察される(図10右)。
図10 さまざまなクラスト発達形態
左:
風紋の風上斜面
中央:
ケカモノハシの涸れ茎
右:
杭の付け根

4)砂簾(されん)
 砂丘列斜面の頂部付近で,湿った砂が乾燥する過程でしばしば集団で流れ降る(乾燥岩屑流)。その幅数cm~30cm,流下する距離は数m未満で,舌状形態を保ったまま先端部が停止する。これらの流れが場所を変えて起こり,簾(すだれ)を垂らした模様に似ることから,「砂簾」と名付けられた(図11)。
 湿潤時の砂の安息角は,乾燥時の安息角よりも数度大きいことが,乾燥岩屑流発生の誘因である。つまり,降雨を伴う強風時に,砂丘列風下斜面の頂部付近に湿った飛砂が急な斜面を形成する。この斜面が乾く過程で不安定となり,乾燥岩屑流が発生する。しかも均質な斜面において,乾燥岩屑流は途中でその動きを停止する。これは流れ降るにつれて岩屑流内部で粒径の分級が進行し,粒子間の抵抗が増すためと考えられる。岩屑流は流動過程で細粒な粒子が底部に落ちこみ,粗い粒子が先端部に集積するために,先端部では粗い粒子同士が噛み合い,摩擦が大きくなるためである。その結果,舌状地形を形成しながら停止する。また乾燥岩屑流が通過すると,その両脇に堤防状の高まりが残り,縦筋となる。これらが簾の紋様をおりなすのである。


図11 砂簾 第2砂丘列南向き斜面にて2008.11.20撮影

5)茂み砂丘(ネブカ・nebkha)
 ケカモノハシ,コウボウムギ,ハマゴウなどの砂丘植物が飛砂を補足して形成する小丘状の堆積地形をさす(図12)。周囲にある無植生砂地の侵食が進み,植生に覆われた部分が相対的に突出して,似た形を示すことがある。植生が風に対して粗度の役割を果たし,飛砂を捕捉したり,また侵食抵抗性を示したりすることが,茂み砂丘の成因である。


図12 茂み砂丘 2009.02.28撮影
大型の砂柱景観をなす。

6)砂丘カルメラ
 凍上により砂がカルメラ状に盛り上がる現象を徳田貞一(1937)は「砂丘カルメラ」と名付けた。人の足跡をきっかけとしてつくられ,モグラ塚のようにみえることが多い(図13)。形成プロセスの詳細は今後の残された課題である。


図13 さまざまな砂丘カルメラ
左:徳田(1937)より抜粋
上:2008.11.29 11時頃撮影。湿った帯状地帯に,前日の足跡が浮き出て残る。シルトなどの細粒成分が関与する可能性あり。

観察の視点

 微地形とは,2.5万分の1地形図には表現されないような地表面の微細な凹凸をいう。一般に小規模な地形ほど形態・動態と構成物質や営力との対応関係がより明瞭になり,地形の形成時間も短い。したがって野外で時間をかけてじっくりと観察すれば,微地形が形成される様子や微地形が変形する様子など目にすることができる。まだまだ解明されていない現象がたくさんあるので,注意深く観察して,自由に考えを巡らし,再び観察することが重要である。

山陰海岸ジオパークのなかでの意義

 砂丘地での砂移動に伴う微地形の多様性は,いずれの時季に訪れても必ず観察できる。現成のダイナミックな地質現象を間近に観察できる点に意義がある。

この項目で質問・連絡したいとき

鳥取砂丘自然公園美化財団,鳥取砂丘レンジャー

文献・参考資料

徳田貞一(1937 )砂丘カルメラ.地理学,5(1),72-75
小玉芳敬・藏増達弘(2010)鳥取砂丘にみられる「風成横列シート」の形成条件.日本砂丘学会誌,56(3),83-90.

執筆者のコメント

砂丘の微地形は訪れる度に違った表情を見せてくれます。たとえ天候が悪くても訪ねてみる価値が充分にあります。

(小玉芳敬;2010.03.03)