山陰海岸ジオパーク野外学習ハンドブック(鳥取砂丘を中心にして)

離水海食洞(丸山・一ッ山)

位置 鳥取砂丘の周辺地域

地点1:袋川に面した丸山の西麓
  北緯35度31’18” 東経134度13’21”
地点2:砂丘海岸道路南方一つ山西麓
  北緯35度33’4”  東経134度15’6”

選定理由

鳥取砂丘とその周辺にある基盤岩の孤立丘にできた海食の地形で,節理や断層などに沿ってできる。過去の海水面の位置が分かり,砂丘形成の時期を考える手がかりになる。


図1 観察地点1(丸山離水海食洞)(国土地理院2.5万分の1地形図「鳥取北部」)

視察の視点

 海食洞は海に面した急な崖(海食崖)の基部にできたくぼみで,幅に対して奥行きの大きい洞穴。過去の海水面近くで断層や節理などの弱線に沿って発達し,その後に離水したものである。海水面近くでは崖がくぼんでノッチ(波食窪)を作ったり,海食洞の幅が広くなっていることが多い。これらの高度を調べると海水面変動の時期や個々の地盤の運動が分かる。


図2 観察地点2(一つ山離水海食洞)(国土地理院2.5万分の1地形図「鳥取北部」)

▲丸山離水海食洞

 波浪による侵食でできた海食洞であるが,現在は海岸から遠く離れ,海水面より上位にある離水海食洞である。
 入り口部分の高さ:約1.0 m,最大幅:約0.6 m,奥行き:18 m洞穴形成の時期は約6,000前の縄文時代前期と考えられる。


図3 丸山離水海食洞(地点1)

▲一ッ山離水海食洞

 孤山と書いて一ッ山と呼ぶこともある。砂丘中の凝灰角礫岩からなる孤立丘にできた海食洞。海側の海食崖にも多くの溶食地形が見られるが,西斜面に節理に沿って海食洞が見られる。高度2-3 mの付近で水平に広くなっており,洞穴内には円礫が堆積している。形成の時期は縄文海進時かもしれないがはっきりしない。

図4 一つ山離水海食洞(地点2) 図5 一つ山離水海食洞の底部の広がりと円礫岩

解説

 山陰海岸の特徴は岩石海岸に波食棚,海食崖,海食洞などの海蝕地形が発達していることで,浦富海岸や但馬海岸野も顕著である。離水海食洞は第四紀の高海水面期にできたもので,一つ山では海食洞の高度が3 m前後であり,縄文時代のいわゆる「縄文海進」で形成されたとされている。いっぽう,山陰海岸には,現在の海水面より低位に発達する沈水地形も知られている。鳥取砂丘の新砂丘形成期,岩石海岸では海食洞やノッチなどができ,離水するとともに新砂丘が急速にできた。


図6 江戸時代末に書かれた岩戸の窟石尊(左)と現在の窟石尊(右)タフォニー風化の進んだ巨礫

観察の視点

海水準変化

文献・資料

鳥取市誌(1),新修福部村誌

執筆者のコメント

山陰の岩石海岸には離水した海食洞が各地で見られる。これらの海抜高度がほぼ一定していることは,海水面の変動によるものであることを示している。

(赤木三郎:2010.01.08)