山陰海岸ジオパーク野外学習ハンドブック(鳥取砂丘を中心にして)

クロスナ-砂丘が草原に覆われたことがある-


図1 クロスナ露出地点(国土地理院発行2.5万分の1地形図「鳥取北部」に加筆)

位置 鳥取砂丘クロスナの分布地

地点1:千代川河口右岸の十六本松住宅団地裏
  北緯35°32’14” 東経134°12’05”
地点2:千代川右岸浜坂,荒神山
  北緯35°31’52” 東経134°12’22”
地点3:浜坂小学校入り口付近
  北緯35°31’45” 東経134°13’00”
そのほか,福部砂丘のらっきょう畑一帯の地下に分布.

選定理由

新砂丘に挟まれて黒色で腐食物に富んだ部分が層状に発達しているのでクロスナと呼ばれている。主としてイネ科植物に由来する植物珪酸体(プラントオパール)が含まれているので,そこに植物が繁茂していた証拠となる。人類遺物も随伴するので,砂丘の区分,考古学的な研究,気候や植生変化の指標となるので選定した。


図2 浜坂十本松におけるクロスナ産出地

地形・地質の意義

砂丘の研究では時代決定や形成時期の環境を推定する際の決め手になる化石や鍵層が少ないので,クロスナを追求することはきわめて有効な手段である。

観察者の対象

高校生~一般まで(室内作業を伴う)。クロスナは黒ボクと異なって,砂の粒子に腐食物が混入しているものであるから,強熱するか過酸化水素水を加えると脱色する。黒ボクは火山灰土が腐食化したもので,火山灰の構成鉱物が検出できる。土壌中の植物珪酸体の抽出と分離は,有機物と鉄の除去重液による分離の後,プレパラートで観察する。

解説

 植物珪酸体は,高等植物の細胞に含まれる非晶質のオパールである。その形態的な特徴が植物の分類に対応するので花粉化石のように古環境復元に有効である。クロスナはかつて砂丘を植生が覆い,砂丘が固定されていたことを示す古土壌である。
 主にイネ科植物やウシノケグサ,カヤツリグサなどの珪酸体を包含する。縄文時代以降,山陰では3枚のクロスナが認められている。


図3 代表的な植物珪酸体の写真
A:トウモロコシ,B:ヨシ,C:アズマザサ,D:コマチダケ,E:チマキザサ。(近藤・佐藤,1986より)、横線は5μ(ミクロン)を示す。

観察の視点

 クロスナの命名とその意義は鳥取砂丘で初めて提唱されたもの(豊島・赤木,1963)であるが,まだ不明の部分が多く今後の研究が待たれるところである。クロスナと地形との関係,クロスナを境として旧砂丘と新砂丘に分ける向きもあるが鳥取砂丘では一般化していない。  クロスナの調査は考古学や植物学の分野の方の協力が望ましい。山陰の砂丘遺跡では,例外なくクロスナが発達しているようである。


図4 鳥取砂丘付近のクロスナ層中の植物珪酸体の構成(山崎,1980・安井,1981)

鳥取県東部のクロスナ

 鳥取県下では西から東部へ弓ヶ浜,東浜,長瀬,石脇,宝木,末恒,賀露坂とほぼ全城の砂丘地でクロスナが発達し,いずれにおいても弥生~古墳世のどれかの遺物や遺跡が見られる。クロスナの模式地は湯梨浜町石脇の国道9号線沿いの砂丘である.白兎海岸の身干山砂丘遺跡では3枚のクロスナが発達し,下から2枚目のクロスナの上に立つ宝匡印塔は砂丘砂に埋もれ直立したまま出土した。このことは中世以降にはげしい砂丘の発達があったことを物語る。


図5 鳥取県東部海岸に発達する砂丘の層序とクロスナ

植物珪酸体の形態分類

植物珪酸体は無色であるが土壌中では褐色を呈し,大きさは30~40ミクロン。屈折率は1.41~1.48,比重は1.5~2.3である。
日本では植物珪酸体の分類は近藤・佐瀬(1986,1993)によって,イネ科植物珪酸体はⅠ~Ⅷの類型に分けられ,形態から棒状形,亜鈴型,食パン形などの名称でよばれている。1981年に安井は鳥取県砂丘の植物珪酸体を研究し,その産出地として4地点を確認した(図1)。特に濱坂部落の荒神山では3枚のクロスナを認めたが,その後,開発が進み消滅した。

執筆者のコメント

砂丘のクロスナに含まれる植物珪酸体はほとんど現生の植生に見られるものであり,人間もそこで行動していたに違いないから,砂丘形成の頃の植生を考察するときに大いに参考になるものと考える。


図6 鳥取市浜坂荒神山Ⅰの植物珪酸体(安井,1981)
1~8:ササ形珪酸体,9~11:鞍形珪酸体,12:マユ形珪酸体,13~19&30:ウシノケグサ形珪酸体,20~25:棒状形珪酸体,26~29&31~33:ファン形珪酸体,36~40:ポイント形珪酸体,34&35&41~51:その他

文献・参考資料

豊島吉則・赤木三郎(1963)鳥取砂丘の形成について.鳥取大学学芸学部研究報告,16,1-14.
赤木三郎(1994)さんいんの海岸砂丘に発達するクロスナ.豊島吉則先生退官記念事業会編,「さんいんの自然環境と産業風  土」富士書店,25-60.
近藤錬三(2000)植物ケイ酸体.「化石の研究法」,共立出版k.k.
安井(西村)和子(1981)クロスナ層中の植物珪酸体.鳥取大学教育学部卒業論文

(赤木三郎:2010.10.12)