山陰海岸ジオパーク野外学習ハンドブック(鳥取砂丘を中心にして)

鳥取砂丘の風・飛砂の特性

選定理由

観光地として保全されている鳥取砂丘は,開発のための砂防林植林などを行わず,自然の風で砂が動き,砂丘特有の地形が維持されている特徴を有している。


図1 飛砂の形態三種

解説

【鳥取砂丘の風気候 -砂を動かす自然の風とは?―】

 砂は,風速が4~5メートルになると動き始める。一般に,風速が5~8メートルのとき砂面に美しい風紋ができ,10メートルを超えると砂は激しく動き,砂柱のような侵食地形ができる。風があるときの砂の動きは,図1のように重い砂粒は表面をコロコロと転がり(転動),やや細かい粒はピョンピョンとはねるように(跳躍)して移動し,微細な粒子は,風に乗って(浮遊)移動する。

  鳥取砂丘では,1998年から砂丘の風気候を明らかにするために,図2 のとおり第2砂丘列中央部のT8地点に風向風速計を設置し観測が行われている。T8のポイントは,日本海に直面した標高45mの突部地形上にあり,周囲500mの範囲には地物・樹木が一切ない。

  砂が激しく舞うことが多い環境のため,観測データは断続的なものとなっているが,図3は,欠測のなかった2004年の風の記録である。これまでの観測で明らかになったことを以下に要約する。

 年間平均風速は,およそ5メートル。月平均風速を見ると,10~4月の冬季を中心とした期間の風が強く,5~9月は弱い傾向を示す。日平均風速を見ると,非常に出入りが大きくなっているが,10メートルを超えるような強風の日は,季節風が吹く冬に多く見られる。


図2 鳥取砂丘の風調査(1998年9月~)
 


図3 風の観測結果(2004年の例)

    

  図4は,風向の観測結果を整理したものである。1年間の全データ,風速が5メートル以上,10メートル以上の風について,それぞれの風向の出現頻度を風配図に示した。全データの風向で南風の頻度が高いのは,日常的に吹く海陸風により,夜間の南風の時間が長いことによる。10メートルを超す風は,北~西,すなわち日本海方向から吹きつける風で占められている。その大半は冬季の季節風である。以上から,大量の砂を動かす風は,秋から翌年の春先にかけて吹き,夏は風が弱い季節であると言える。


図4 鳥取砂丘の風配図(2004年)

         

  飛砂の量は,風速の3乗に比例し,さらに風の継続時間に比例すると言われている。砂丘における風と砂移動観測の経験から,日平均風速5メートル以上の日,10分間最大風速10メートル以上の日,瞬間最大風速15メートル以上の日は,大量の飛砂が発生する日の目安にすることができる。

  1993年から,120本の砂面変動調査杭が砂丘内に設置されている。図5は,毎月1回続けられた測定の結果から,変動した砂面の大きさを月別に平均し比較したものである。以上,本図と風の観測データから,砂は冬季の西~北寄りの風で発生する波浪で大量に岸に打ち上げられ,海から内陸に向かう風で運ばれ,砂丘が形成されているということが判る。


図5 鳥取砂丘に設置された調査杭120本による砂面変動量の月変化(1998年~2004年)

資料

鳥取県(1998,2001,2004):鳥取県砂丘景観保全調査報告書.        

 
(神近牧男;2011.03.04)