山陰海岸ジオパーク野外学習ハンドブック(鳥取砂丘を中心にして)

鳥取砂丘沖の浅海底堆積物

位置

浜坂砂丘の沖合(図1)

選定理由

鳥取砂丘沖の浅海底が,どのような地形であり,どのような物が堆積しているかを知ることは,砂丘の形成史を考えるひとつの材料となる。


図1 浜坂砂丘沖の海底地形図(鳥取5万第6338号8)より一部抜粋

解説

1)浅海底の底質調査(図2,3)
砂地用アンカーを改良してドレッジ式サンプラーを自作し,船外機付きヨットから底質を採取した。1999年に実施された調査航路を図2に示す。

 鳥取砂丘沿岸の底質分布(図3)状況は,水深35m以浅では砂丘砂と同様な細砂~中砂(径0.125mm~0.5mm)が堆積している。千代川河口付近では部分的にシルトが卓越し,その影響は潮流によりシルト質細砂として河口から東へ2kmほど続く。いっぽう,水深35m以深(少なくとも水深50mまで)では,図4のような磨かれた扁平な円礫が海底に分布する。礫径は2cm以細が大半である。石の種類は,石英斑岩~流紋岩と三郡変成岩が多く,ついでチャート,安山岩となる。そして花崗岩礫は極めて少ない。これらの扁平礫は,かつて海水準が低下した際,前浜~沖浜に堆積した砂利と考えられる。つまり,かつてのビーチの名残りが海底に保存されているのである。

2)浅海底の地形断面(図5))
 浅海底の地形断面に表層地質を描いたのが図5である。水深30mまでは,勾配14/1000の平滑砂面をなし,水深30m以深で6/1000へと海底勾配が半減する。おそらく水深30mまでは,暴浪時に底質の移動が生じるためであろう。移動限界水深は10mであるとよく耳にする。しかし,波高8m~10mの高波の際,どの水深の細砂までが移動するかは再検討に値する。

図2 鳥取砂丘沖の底質調査航路図 図3 鳥取砂丘沖の底質分布 図4 水深35m~50mにかけて分布する円礫の岩種区分


図5 浅海底の地形断面



図6 千代川河口より流れ出た濁り水が沿岸を東に流れる様子

執筆者のコメント

船で漁をされている方々にとっては,海底地形や岩礁の位置,底質分布などは,すでに頭の中にマップできあがっているに違いない。おそらく聞き取り調査をすれば,すぐにわかったことであろう。
私は東京湾,伊勢湾や駿河湾(田子の浦)のようなセンスで予想し,海底にはヘドロが堆積しているものと思いこんでいた。そのため調査中の驚き(ヘドロがほとんど見られないこと)は半端でなかった。大雨の後,千代川河口から流れ出した濁り水が,沿岸を東へと流されていく様子(図6)を幾度か目にした。図3のシルトおよびシルト質細砂層の分布は,まさにこの強い潮流の反映であろう。

文献・参考資料

小玉芳敬(2004)「鳥取の地形まるごと研究 鳥取大学自然地理研究室の卒業論文や修士論文の成果を中心にして」鳥取大学教育地域科学部(自然地理学教室),68pp.

(小玉芳敬;2009.11.03)