パラボリックデューン
位置(図1)
浜坂砂丘 乾燥地研究センター
選定理由
植生が繁茂した砂丘地にみられる地形のひとつがパラボリックデューン(放物型砂丘)である(図2)。鳥取大学乾燥地研究センターでは,飛砂防止のために植栽されたシナダレスズメガヤが次第に繁茂し,パラボリックデューンが形成されていく様子が空中写真に記録されていた。天然記念物区域では見ることのできないタイプの砂丘地形がここにはある。
図1 多くのパラボリックデューンがみられる場所(赤丸付近)
解説
パラボリックデューン(PD)とは,図2に示すような風下側に凸を示すU字型またはV字型の平面形を持つ砂丘形態のことで,中央部は風食凹地(blowout)となっている。一般的にnoseの高さ5~10mで,armsまで含めた全長は1~2㎞に達する(大内,1995,468-490)。植生に被覆された砂丘地で一定方向の強風が吹き,局所的な植生破壊をきっかけとしてblowoutが成長することにより形成される(Cooke et al., 1993, 360-363)。乾燥地研究センター敷地内には,noseの高さ2mほど,長さ50mほどのPDのミニチュ
ア版が数多く観察できる(図3)。
鳥取県立博物館が1968年以降,5年おきに撮影を続けている鳥取県郷土視覚定点資料(空中写真)を用いて,調査地周辺の砂丘形態の経年変化を判読した。その結果,1968年の空中写真では植生のほとんど無い砂丘地が広がっており,PDはひとつも確認できなかった(図4)。PDが空中写真に記録されはじめたのは1988年で,砂丘地には植生が侵入していた。鳥取大学農学部附属砂丘利用研究施設のころに圃場の畦畔や法面の飛砂防止対策としてシナダレスズメガヤが植栽されており,これが周囲へ拡散した(鳥取大学農学部附属砂丘利用研究施設,1983)ものと考えられる。1988年以降PDの数は増え,いずれも北に凸形状を示した。植生の侵入と南風がPD成立の鍵を握る。
図2 パラボリックデューンの模式図
図3 乾燥地研究センター敷地内で観察されるパラボリック・
デューンの一例(風上側から撮影)
図4 空中写真判読によるパラボリックデューンの変遷
2008年の空中写真に判読されたPDにナンバーをつけ(図5),1988年以降判読されたPDのクレストラインを重ね合わせて(図6),PDの形態変化と発生・分離・派生の様子を追跡した(図7)。noseの突出度合いに注目すると,PDが形成されはじめた1988年には,曲率半径が大きい扁平型であったのが,2008年には,曲率半径の小さい突出型へと変化していることがわかる。図7にはnoseの湾曲を曲率半径6m以上(白丸:扁平型)と未満(赤丸:突出型)に分けて記した。 1988年には8個のPDが確認でき,それらが次第に分離し,blowout内から派生し,あるいは全く別の場所に発生し,2008年には20個以上のPDが確認できた。1998年以降,突出型が増えていることもわかる。突出型の増加は植生の繁茂密度と関連しているようだ。
図5 パラボリックデューンのナンバーリング
2008年撮影の空中写真と現地調査結果に基づく
図6 1988年以降,乾燥地研究センター敷地内にみられたパラボリックデューンのクレストラインの変遷
図7 パラボリックデューンの発生・分離・派生系統図
白丸:扁平型,赤丸:突出型,枝分れ実線:分離, 枝分れ破線:派生
図5に示したJデューンでトータルステーションを用いた測量を行った。2000年に同じ場所で行われた測量データ(河合隆行氏による)と比較することで,デューンの動態を調べた。
図8から,2000~2008年の間にJデューンのnoseは約15m前進し,風食凹地は0.4m深くなった。noseの平均移動速度は1.67m/yearであった。
図8 Jデューンの変形
2000年測量(上)と2008年測量(下)
風洞実験によるパラボリックデューンの形成実験
パラボリックデューンの形成過程についてヒントを得るため,鳥取大学工学部海岸工学研究室所有の送風機がついた全長約30mの造波水路を風洞に改造し,PDの模擬実験を試みた。風洞は幅60cm,深さ100cmで,右岸側壁はガラス製,天井は透明アクリル製で,風洞内の様子を観察できた。
植生被覆による飛砂抑制を模擬する材料として,網戸のネットを使用した。風洞の上流端から4.8m~7.8mの地点で,豊浦標準砂(粒径0.2mm)からなる全長300cm,幅60cm,高さ45cmの緩斜面を作り,その表面をネットで覆った。ネットの中央部を長さ130㎝,幅30㎝で切り取り,局所的な植生破壊状況を模擬した(図9)。風でネットが浮くのを防ぐため,砂を詰めた袋(サンドソーセージ)をネット両端に置き,ネットの切り取った範囲の周囲には磁石を重りとして設置した。
風速は8m/secで一定に保ち,5時間にわたる砂面変化をレーザー距離計M240S-311で記録した。6分おきに通風を止め縦断形を計測した。またこの時ネット上に堆積した砂を落とすため,直接砂面に触れないように磁石を持ち上げてネットを表面に引き上げる作業を行った。野外で植生が堆砂に負けずに成長し,飛砂を捕捉する効果を実験で模擬するための作業であった。
風上側からの砂の供給がなくなってから,ネットを切り取った範囲で風食が進行して,この風食凹地より生産された砂は,風下側のネットを覆った。ネットを再び地表面に引き上げる作業を繰り返したことで,noseの堆積が進行した。つまり,野外では植生が砂の埋没に負けることなく,上方に成長し続けることが,noseやarmsを成長させる重要な要素であると認識した。
図9 パラボリックデューンの模擬風洞実験
左手前が上流側で,白がサンドソーセージ,青・赤・黄色がマグネット。初期状態。
観察の視点
小地形であるとはいえ,鳥の目のセンスをもっていないと現地でパラボリックデューンを認定できません。見れども見えずとなります。図1をイメージしながら,自分の立ち位置を想像してください。一旦気がつけば,次々と見えてきます。
山陰海岸ジオパークのなかでの意義
砂丘地での砂移動に伴う微地形の多様性は,いずれの時季に訪れても必ず観察できる。現成のダイナミックな地質現象を間近に観察できる点に意義がある。
文献・参考資料
大内俊二(1995)「現代地形学」古今書院,692pp.
R. Cooke, A. Warren and A. Goudie (1993) Desert Geomorphology. UCL Press, 526pp.
末房身和子・小玉芳敬・河合隆行(2009)鳥取県郷土視覚定点資料(県博の空中写真)は語る その4 ― 鳥取大学乾燥地研究
センター敷地内砂丘地に発達したパラボリックデューン ―. 鳥取地学会誌,13,59-63.
鳥取大学農学部附属砂丘利用研究施設(1983)「砂丘利用研究施設25年の歩み」 鳥取大学農学部附属砂丘利用研究施設,
77pp.
執筆者のコメント
身近なところにパラボリックデューンのミニチュア版がたくさんあること,20年足らずでこれくらいの地形はいとも簡単に作られることに感激しました。