山陰海岸ジオパーク野外学習ハンドブック(鳥取砂丘を中心にして)

砂丘およびその周辺の基盤地質

選定理由

 砂丘におおわれた基盤岩石,とくにその表面の凹凸は,砂丘のなりたちに影響をあたえたはずである.この項では,基盤地質とそれらが砂丘の形成に果たした役割をとりあげた.

特徴・意義

 鳥取砂丘の砂の下には何があるのだろうか? 砂丘の底を見ることはできないので,この謎解きは容易ではない.もっとも確実な方法は,ボーリングによって砂丘の下の岩盤を調べ,採取することである.これまでに得られたボーリング資料は岡田(2005)にまとめられ,砂丘の形成過程とともに,沈降性地殻変動が進行してきたことが解明された.基盤岩の掘削深度は数mにすぎないため,より深部の岩石やそれらの広がりを調べるにはもっと深いボーリングを多数の地点で実施することが必要で,それには多額の経費がかかる.
 そこで,砂丘の周辺に露出している岩盤の地質調査を行ない,既存のボーリング資料と総合して砂丘の地下地質を推定し,基盤地質と砂丘とのかかわりについて考察した.

図1 1900(明治33)年発行の地形図に示された砂丘の分布.陸地測量部(1990)に加筆.

浜坂砂丘と福部砂丘の地形的特徴

 千代川河口の東には,塩見川河口まで8 kmにわたって砂丘が連なり,二ツ山・孤山(ひとつやま)付近を境に東西に二分される(図1).西半の浜坂砂丘は大きく起伏した雄大な砂丘で,旧陸軍の演習場であったため防砂林や畑地などとして被植されなかったところが「鳥取砂丘」になっている(図2A).いっぽう,東半の福部砂丘は,ラッキョウ畑に利用されている(図2B).
 砂丘と南側の山地の間には多鯰池のほか,明治期までは湯山池(図1),そして,江戸期には細川池(塩見川が砂丘に接する付近)があった.池の水面の海抜高度は,現在の多鯰池で16m(星見,2009),東側の池ほど低かったであろう.

図2 砂丘の景観.A:浜坂砂丘東部にひろがる「鳥取砂丘」,B:福部砂丘にみられるラッキョウの開花

基盤地質

 地質調査を行うと,岩石や地層の重なり方(層序:図3)と分布(図4)がわかる.それらにもとづいて断面図(図5)をつくると,砂丘の基盤岩は中新世の河原火山岩層であり,その下に古第三紀火成岩類が分布すると推論される.

 

基盤地質と砂丘との関係

 北園安山岩層は,砂丘の中に突出する”残丘”(侵食され残った地形的高まり)や山地の急斜面をつくっていて(図6),風化・侵食されにくい”硬い”岩石であることがわかる.ボーリングでも,硬くて崩れない”棒状のコア”として採取される(株式会社ワールド,2000).


図3 鳥取砂丘とその周辺における地質層序

図4 砂丘とその周辺の地質図

図5 砂丘とその周辺の地質断面図

 

 二ツ山・孤山は“硬い”北園安山岩層でできていて,砂丘の中に突き出ている.冬期の季節風に対する障壁(風衝)になり,南側の湯山低地は飛砂による埋め立てが進んでいない(図6).東西両側の福部・浜坂砂丘には基盤障壁がなく,飛砂が山裾まで埋め立てている.福部砂丘が江川(えがわ)を堰き上げて,湯山池(図1)ができたのであろう.
 多鯰池東端と二ツ山の間,そして,二ツ山と孤山の間には,砂丘層の下に北園安山岩が分布し,侵食されにくい岩質であるために基盤の高まりをつくっていると推論される(図4).この推論は,多鯰池の水位と「鳥取砂丘」の”オアシス”の湧水量が連動すること(星見,2009)からも支持される.というのは,この連動性は多鯰池から浸透した地下水が東側の湯山ではなく,北西側の浜坂砂丘へ流下していることを意味し,多鯰池東端から二ツ山にのびる北園安山岩の高まりが地下の”分水嶺”になっていることを示唆するからである.

図6 砂丘とその周辺の3次元地質図. 二ツ山・孤山による風衝と湯山低地のなりたちを読み取ることができる.

まとめと今後の課題

 砂丘周辺に露出する基盤岩類の層序と地質構造が解明された.砂丘層の堆積以前に,これらの基盤岩類が陸上で侵食され,地質構造や岩質などに応じた古地形をつくっていた.古地形は砂丘の形成にさまざまな影響をあたえたとみられ,より詳細な解明が待たれる.

謝辞

 ボーリング資料をご提供いただいた「砂丘温泉ふれあい会館」,ならびに,浜坂砂丘西部の基盤岩露出をご教示下さった神近牧男先生・河合隆行博士に,厚く御礼申し上げる.

文献

  岡田昭明(2005)鳥取砂丘の形成過程からみた最終間氷期の海水準.鳥取地学会誌,9,27-30.
  星見清晴(2009)多鯰池の水位変化について.鳥取地学会誌,13, 37-58.
  陸地測量部(1900)2万分の1地形図「細川」「鳥取市」「吉岡」.
  株式会社ワールド(2000)福部村砂丘温泉ふれあい会館源泉浚渫工事報告書. 5 p. +添付資料.

(矢野孝雄・田中優一・宇根祐樹・小泉匡央・鶴巻伸紘・山崎慎也);2011.03.07)