地域学部からのお知らせ
新刊のご紹介 『アートがひらく地域のこれから─クリエイティビティを生かす社会へ』
『アートがひらく地域のこれから─クリエイティビティを生かす社会へ』
野田邦弘・小泉元宏・竹内潔・家中茂編著、ミネルヴァ書房、2020年3月刊https://www.minervashobo.co.jp/book/b496818.html
近年、アートによる地域活性化やまちおこし、観光振興が注目を集め、創造産業や創造都市、地域アートに関する議論が盛んになっている。本書は、こうしたクリエイティビティにかかわる理論の整理と事例の検討からなる実践的入門書。はたして地域においてクリエイティビティはどのような意味と価値を持つのだろうか。
3章の理論編と9章の実践編、そして12のコラムからなる「地域学」への新たな誘いの書。
【目次】
はしがき─生のための戦術と技法
第Ⅰ部 アート・知識生産・文化政策─理論編
第1章 私たちのクリエイティビティ・・・小泉元宏(立教大学社会学部)
第2章 自然を対象とする知識生産─地域環境知・基礎情報学・精神病理学から・・・家中茂(鳥取大学地域学部)
第3章 アートが地域を創造する・・・野田邦弘(鳥取大学地域学部)
第Ⅱ部 つくるためのクリエイティビティ─事例編1
第4章 地域とともに未来を創る劇場を目指して・・・五島朋子(鳥取大学地域学部)
第5章 公立文化会館で育まれる創造性─茨城県小美玉市四季文化館に見る「学び」の姿・・・竹内潔(鳥取大学地域学部)
第6章 アートで変える関係・仕事・地域─神奈川県の「カプカプ」と岡山県の「ぬかつくるとこ」・・・川井田祥子(鳥取大学地域学部)
第7章 社会の課題を自分ごとにするために─福島県猪苗代町「はじまりの美術館」の例から─長津結一郎(九州大学大学院芸術工学研究院)
第Ⅲ部 いきるためのクリエイティビティ─理論編2
第8章 創造の実験場としての被災地─「ポスト震災20年」の神戸における間髪主義の変容・・・稲津秀樹(鳥取大学地域学部)
第9章 宇部の野外彫刻とまちづくり─上田芳江と土方定一の役割・・・筒井宏樹(鳥取大学地域学部)
第10章 大災害の現場を祝祭に変えるダイナミズム─石巻ウェディングの取り組みから・・・金菱清(東北学院大学教養学部)
第11章 暮らしのなかで創造される漁師─千葉県鴨川市定置網漁の現場から・・・村田周祐(鳥取大学地域学部)
第12章 アートを活かした大学の地域づくり・人づくり・・・野田邦弘・竹内潔
あとがき
【コラム】
「たみ」による人々の創造性を広げるための場づくり・・・蛇谷りえ(うかぶLLC)
身体から考えてみる・・・木野彩子(鳥取大学地域学部)
イトナミの創造・・・大下志穂(こっちの大山研究所)
物語の始まり・・・姜 侖秀(インターナショナル・シェアハウス・照ラス)
「地域」と「アート」─相互作用のその先に・・・吉田雄一郎(城崎国際アートセンター)
動いて資源を発掘し、豊かなコミュニティを・・・福井恒美(リアルマック)
まちづくり考・・・本間 公(工作社)
朝鮮学校の子どもたちの絵と私たち・・・三谷 昇(在日朝鮮学生美術展山陰地区実行委員会)
ディスカバー・ジャパンの神話を超えて、地域映画の実学を構想する・・・佐々木友輔(鳥取大学地域学部)
クリエイティブユースを軸に据えた活動から見えてくること・・・大月ヒロ子(IDEA R LAB)
考えられなかったけど本当になる話・・・谷 茂則(谷林業、大和森林管理協会)
アート・プロジェクト“HOSPITALE”・・・赤井あずみ(鳥取県立博物館)
本書「あとがき」より
編者の一人、家中は、「はしがき」で言及している「限界芸術」を論じた鶴見俊輔さんから、次のようなお話を聞いたことがある(国立民族学博物館「柳宗悦と民芸運動の研究」2002年)。
鶴見さんは17才のときにボストンにいて、アーナンダ・クーマラスワミというスリランカ出身の美術史家の講演を聞きにいった。そこで深く感銘をうけたのは、芸術家という特別な人はいなくて、一人一人のなかに芸術家がいるという話であった。それがすなわち小乗仏教、ブッダの教えなのだという。もう一つ鶴見さんから聞いたのは、民藝運動が提唱される以前、千葉県我孫子に柳宗悦や志賀直哉、バーナード・リーチたちが住んでおり、そこでは日々たくさんの会話が交わされたに違いないということであった。記録には残されていない、その膨大な会話の蓄積のうえに民藝の思想が育まれたことに、研究は届かなくてはいけないと。
この2つのことは、私が「地域学」を構想するときの土台となっている。クリエイティビティは、芸術家や専門研究者だけのものではなく、日々の暮らしの中で人々によって発揮されている。また、人々が相互に語りあい支えあう日々の蓄積を通じて、クリエイティビティの拠りどころが形成される。鳥取大学地域学部は、そのような一人一人のクリエイティビティの発揮を促し支える拠点を目指して開設された(2004年)といってよい。そのことからまた、地域学は、当初からいまでいう「超学際/トランスディシプリナリー」な学問の実践を指向していたといえる。