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03: 縮小社会における公共劇場と地域の関係を考えよう

開催レポート

03: 縮小社会における公共劇場と地域の関係を考えよう 開催レポート

2020.02.14

テキスト・写真:藤田和俊

第3回講座は、公共劇場と地域の関係づくりをテーマに、松浦さんに聞いた。金融機関など民間で働かれた経験を持つ松浦さんは、経営・運営感覚にとても優れ、社会の流れや公共劇場の役割に新たな価値を創られているように感じた。講演では、「公共劇場とは?」から、その置かれている現状や求められる役割、つまり社会との繋がりについて、三重県で実戦されていることを紹介しながらわかりやすく説明していただいた。受講者の中には公共施設の関係者もいて、具体的な経営努力についての質問などもあり、毎回のごとく盛り上がる後半のワークショップや質問タイムも充実した内容となった。

▽公共劇場とは?

松浦さんはまず、公共劇場の歴史などを紹介した。それによると、70年代以前は平等に使ってもらうという公平性が求められ、その後70年代になると、各地に優れた劇場を作ることで、都会でしか観られなかったものが地方でも観られる環境となった。80年代のバブル期は劇場建設ラッシュで、90年代はバブル崩壊でハコモノ批判へとつながっていく。公共劇場の機能や定義が整備されてきたのは、2001年に文化芸術振興基本法が成立した頃からで、その後、指定管理者制度が2003年に導入されて民間目線での運営が求められるようになった。「集会場から舞台鑑賞をする場へ、民間視点での経営重視、そしてようやく専門的な場所と考えられる時代になった」と説明した。

指定管理者制度は、本来収益とサービスの向上を目指したものだが、「実際は、理念は高く、運営実態は低い。単なるコストカットでしかないケースもあり、結局劇場が何をしたいのかがない」と指摘した。その中で、2012年に劇場、音楽堂等の活性化に関する法律(劇場法)が成立し、事業の質の向上が求められるようになった。劇場法第3条には劇場の事業として8つの項目があり、8番目に「地域との関係性を考えること」が掲げられている。そのためには、実際に劇場には来ない90%の市民=サイレントマジョリティーの存在が重要と話し、彼らの理解を求めるには、劇場が「社会に有効な活動をやっているという認識を持ってもらうことが大切だ」と話した。

▽三重県文化会館の取り組み

三重県文化会館では、組織運営の改革に手をつけ、評価制度やスタッフの質を向上するための福利厚生など社内システムを構築した。「単なるコストカットではだめ」というように、利用者へのサービスの向上という点では、利用料のコンビニ支払いや会議室などのアメニティグッズの充実など、利用しやすさへの配慮は忘れなかった。その結果、施設稼働率は6割から8割にまで増えたという。

事業の企画については、「地域によってもともとある文化資産、人の性質とか、スタートラインが違うことを理解することから」と話した。トライ&エラーが許される環境づくりやマンネリをさせないことの重要性を説き、「コンビニ全体(プログラム全体)をどう作るかが重要で、そこで売る1個のおにぎり(一つの企画)だけを考えるのではない」と例えた。

▽「by ART」、アートの力で


アートの力で異分野に何ができるか(by ART)を考え、実践してきた。中でも、福祉分野に向けた超高齢社会と向き合うプロジェクトでは「3年間やってきて可能性を感じている。社会、家庭での役割を終えた年齢になると、人は平坦な生き方になるが、そこからいい刺激になる」と松浦さんは話し、前回のフィオナさんの話と同様に、社会課題を解決する一つの方法を示唆してくれたように思う。

 また、地元の名店と組んで料理を食べた後に朗読劇を楽しむまちなかイベント、新日本フィルハーモニー交響楽団と組んで県内29市町の巡回企画など、多彩なプロジェクトを仕掛けている。巡回企画は、各自治体ごとに集中して1年をかけるといい、29年に及ぶ超長期的な企画だ。「県内隅々までやっていくことで、パブリックプログラムとして浸透していく」と話した。こうしたプロジェクトを展開する際に、気をつけているのが広報だと言う。チラシやスケジュール表などデザイン性を重視し、チラシは3万部を発行したり、年間スケジュールは全戸折り込みをする徹底ぶりだ。どうすれば、市民に劇場の動きを知ってもらえるか。そのアイデアはとても豊富で、受講者にとっても参考になるものが多かったのではないか。


ワークショップでは、「行政とうまく連携をとっていく際に気をつけた点は?」「企画はどのように立てているのか?」などより現場に近い質問が多く、即座に参考にして持ち帰ろうとしている受講者の姿勢が感じられる回だった。公的な劇場でありながら、松浦さんの手法はリスクをとりながらも興味を持ってもらう仕掛けをするなど、より民間目線を活かしながら自由度のある企画を立てられていた。講座では、その詳細まで丁寧に教わることができた。

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