プログラムPROGRAM

おととからだであそぼう
〜即興音楽とダンスのワークショップ

特別講座:照明研究会レポート

2020.10.05

テキスト:きのさいこ / 写真:きのさいこ・Ivan Timbrell
照明研究会
2020.9.20 わらべ館いべんとほーる
2020.9.21 鳥取大学地域学部附属芸術文化センターアートプラザ

両日ともに鳥取大学学生のほか、映像や照明に関わる一般市民、舞台技術家など10名ほどが参加。講師の三浦あさ子さんとともに非劇場空間における照明効果の可能性を探るワークショップを開催した。
三浦さんには2010年に木野の作品『かめりあ』(赤レンガ倉庫1号館ホール)で出会って以来、様々な照明実験にご参加いただいてきた。実際に作品で採用されたアイデアばかりではないが、照明効果からあるいは空間から作品を作り出しうると木野は考えており、継続的に関わっていただくことで、記憶を共有し続けている。『かめりあ』ではNゲージ(模型の鉄道)にLEDをのせて走らせることで、周辺においてあった木の棒が森のように会場を覆い尽くすというようなシーンを作ったりもしていた。

1日目:わらべ館いべんとほーる

普段私たちがワークショップ会場としてお借りしているいべんとほーるは円形をしており、通常は音楽のコンサートなどに使用されるため、俗にいう舞台照明はほとんどない。
子供たちが母親の胎内に守られているかのような安心感を感じるように設計されているこの独特な空間をいかに生かすことができるかを考えてみる。
例えばステージ後ろの幕より奥の部屋明かり(蛍光灯)をつけてみる。あかりと人の立ち位置で、見え方が変わって見える。調光室の窓を開けてみる。さらに外につながる窓も開けてみる。排煙口を開けてみる。自然光の差し込みによって空間の雰囲気が変わってくる。
同様に既存の照明もつけ方を変えたり、下ろしてくることでサイドライトとして使用できるのではないかなどと模索する。この部屋はもともとナトリウム灯(表には水銀灯と表記)が使われており、色味の違いなどにも気がつきはじめる。つまり、外部から舞台照明用の機材を持ち込むことは簡単だが、その前にこの場所だからできることやこの場所ならではのことを探すことで表現や発想の可能性を広げるというワークショップであった。


私(木野)自身の作品でもスペースが照明によって区切られたり、ロッカーのような閉所空間で文字通り制限されることで新しい動きを生み出したりすることがある。ない、ということは無限の可能性を有している。禅問答のようだが、それが「創造性」の種子でもあったりする。
後半では各自が持ち寄ったものを用いて新たなる表現を探る。懐中電灯に始まり、割れた鏡、ざるやレースの服など、それぞれは照明に関係なさそうな日常の品々だが、光の当て方を変えることで見違える姿となっていった。
(これら実験の一部は10月18日のワークショップにてご覧いただくことができる予定です。)

2日目:鳥取大学地域学部附属芸術文化センターアートプラザ

1日目も2日目もはじめに自己紹介を行った。出身地と、鳥取の好きなところ。そして必ず三浦さんは「パフォーマーですか?」と尋ねる。本人が踊ったり演じたり歌ったりすると思っている人もいるが、そういうのはちょっと、、、と思っている人もいる。しかし皆が一緒に学ぶ。パフォーマー、スタッフ両方の視点から見てみる。それが照明研究会。


前半は小劇場空間における照明の基礎講座という形で展開、舞台空間に立つ人に対してどの方向から、どのぐらいの範囲で光を当てるか(パフォーマー視点でいうとどこに立つとどのようにみえるか)を入れ替りながら見あってみる。胸から当たるのと足先から当たるのではどのように見え方が違うのか、後ろからの明かりと前からの明かりとどう違うのか、プロセニアムのある劇場(俗にいうステージのような額縁がある状態)と小劇場空間(例えば客席が一体化している等)とではどのように違うかなどを照明家の視点とパフォーマーの視点から話していく。例えば「シルエット」という言葉はどの状態を指すだろうかと皆で考えてみる。
通常、舞台づくりにおいても照明家との打ち合わせはあまり時間が取れず、なんとなく大きくあててもらっておく、あとは当日合わせでという風になりがちな中、どういう雰囲気にしたいのか、基礎的な照明知識を持っていると説明がしやすくなる。


後半に入り、三浦さんは「作品を作ります!」という。テーマは「鳥取の好きなところ」。ゆったりと穏やかな雰囲気、海と山があり自然が豊かなところ、何もない分自由なところ。3つのシーンに分けて主な流れを作ることになった。急遽楽器や照明の配置を含め皆が動き始める。ここでもパフォーマーとスタッフの境目はなく、必ずどこかで出演するというルールが決められる。(実際に三浦さんはじめ通行人などと称しながら皆踊ったり演奏したりする)短い時間でまとめ15分ほどの作品が出来上がった。

 


終了後、希望者で移動し、鳥取市内のスペースで自然光の変化を見ることとした。太陽の陽の光の変化、窓から差し込む外灯、そういったもので時々刻々と変化する様は本当に美しく、建築物の可能性を知った。照明を使わず、陽が沈んでいく様子をともに見ながら、その場所で何ができるのだろう?と考える着眼点が大事ではないかと考えさせられた。場所を生かし、空間を生み出す。動く人を美しく照らすことも照明の大きな仕事だが、空間を作る視点を持つことが求められるように感じた。
「離見の見」と世阿弥は言う。パフォーマーとしても少し離れた目で空間全体を捉える視点が必要なのだが、今回は多角的に事態を観察し発見していくことの大切さを学ぶことができたのではないかと思う。

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