プログラムPROGRAM

ことばの再発明
−鳥取で「つくる」人のためのセルフマネジメント講座−

講演① 後藤怜亜×白井明大

2020.09.11

テキスト:野口明生 / イラスト:蔵多優美

連続講座『ことばの再発明 −鳥取で「つくる」人のためのセルフマネジメント講座−』の1期は「アートとことば」というテーマで行われる。
7月22日(水)は、1期の講師である、NHK番組ディレクターの後藤怜亜さん、詩人の白井明大さんのお二人による講座内講演が行われた。講演はオンライン会議システムであるZoomを利用して行われ、1期受講生のほか、事前申し込みにより講演のみを観ることができる聴講生ら合わせて約40名が参加した。
講演は、前半に後藤さん・白井さんがそれぞれに自身の活動を紹介、後半は「わたしとことばの距離感」というテーマでのお二人の対談で進行した。

言葉が誰かに届く、というのはどういうことなんだろう、という一言から始まったのは白井さんの活動紹介。ここで白井さんは、自身の活動を個別に紹介するのでなく、詩人として、現在「言葉」をどのように感じているかということを率直に語った。

「詩から作者の思いや考えを汲み取る必要はなく、感じるものがあったかどうか、あなたの心に詩が訪れたかどうかが大切」
「言葉が届くとは、書き手と読み手のキャッチボールではなく、浜辺で貝殻を拾うようなものではないでしょうか。それが拾われることを根拠もなく想像して、必ず誰かに届くことを信じて言葉を書いています」
(白井さんの活動紹介の全文はこちら

沖縄移住以来、東京とは違うゆっくりとした時の中で詩作を続けているという白井さん。言葉に向けるこれらの眼差しは、ひたすら時間をかけて言葉と向き合う作家としての洗練と凄みを感じさせた。

続く後藤さんは、2016年よりNHKで担当する福祉番組「ハートネットTV」「#8月31日の夜に。」、そこから派生したオンラインプラットフォーム「自殺と向き合う」「夏休み ぼくの日記帳」の紹介を中心に、番組制作やサイト運営を通じて、精神疾患や希死念慮を抱える10代の若者らとのやり取りの中で「言葉」がどのような役割を持ったかをお話しされた。
生きづらさを感じる若者の“声”を集めることを通じて、理由を尋ねても本人にもわからないことがあると気づいた後藤さん。そこで「夏休み ぼくの日記帳」では日記という形で日々の“エピソード”を集めることによって、同じ感情に対してもバリエーションのある言葉がたくさん出てきたという事例を紹介。
「言葉にすることは、この瞬間これだと思ったことを信じてそれを定着させること。自分の感情に輪郭を与えること」という視点は、彼らと向き合った後藤さんだからこそ説得力を持つものであった。

プログラム後半の後藤さん・白井さんの対談は、互いの活動紹介を受けて気になったことなどを質問し合う形で行われた。
「若者たちの話を聞くとき、自分が発する言葉についてはどうしているか」という白井さんからの質問に、後藤さんは「絶対否定をせず、驚かず、ただ『そうなんだね』と言うように心がけている。否定されると思っているから言えないことがある」。一方、後藤さんの「詩を書くとき、これで書ききったという感覚は得られるのか」という問いかけに、「時間をかけることが大事。書き切ったという感覚は技術でなく、時間をかけることで得られる」と答える白井さん。
結果的にこのテーマを語るには短すぎる時間ではあったが、言葉を発する人と受け止める人という立場を横断しながら、言葉の持つ様々な性質や側面を考えさせられる話が続いた。

 

本講座のキックオフとなる今回の講演がどのような内容になるのか、サポートコーディネーターである筆者自身も非常に興味があった。
お二人に共通して印象的だったのは、いま現在も揺れ動きながら言葉と向き合っているということ。そして、言葉に対して前向きな思いを持っていることであった。
それは白井さんの「自分の心と結びついた言葉が一番伝わる言葉。セルフマネジメントとは手持ちの言葉で精一杯伝えたいことを伝えようとすること」という発言であり、後藤さんの「ネガティブな内容であっても、自分の状況を変えられるかもしれない。言葉にできるということは希望だと思う」という発言である。

「ことば」の持つ、その掴みどころのなさと豊かな可能性。そこに向き合い続けるお二人の講演は、本講座の初回にふさわしい内容であった。

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