プログラムPROGRAM

ことばの再発明
−鳥取で「つくる」人のためのセルフマネジメント講座−

成果発表展「ことばの再発明×18展」

2020.10.05

テキスト:藤田和俊 / 写真:平木絢子

「言葉」というシンプルかつ難解なキーワードを掘り下げようと、7月から9月までの2カ月間、オンライン上で開かれた連続講座「ことばの再発明」。その成果発表展として受講者の作品展が、9月25日〜28日の4日間、鳥取市の駅前サンロードにある「ギャラリーそら」で開かれた。コロナ禍ではあったが無事に開催を迎え、1期と2期合わせて18人の受講者たちがそれぞれ頭を悩ませながら作品を展示。映像、アニメーション、絵、ポートフォリオ、文章…。まさに多種多様なクリエイターたちによる興味深い作品展となった。4日間で約200人が来場し、本展を鑑賞した。




各自に与えられたスペースは横幅約2メートルほど。受講者たちはライター、絵描き、映像クリエイター、編集者など多業種にわたり、それぞれが得意としていたり、講座を終えてカタチにしたいと考えた作品を準備した。ここで何人かご紹介してみたいと思う。

 

1期「アートとことば」の受講生で構成された1階の展示は、自分自身の内側を深く掘り下げ、「言葉」で伝えていくという講座テーマへの返答と感じられるような作品が多く見られた。

まちづくり団体の事務局で働く磯崎つばささんは、自身が短歌を作っていく過程でどう言葉が削られたり、紡がれていくかを見てもらおうと、いくつもペンを入れた推敲中の原稿用紙を展示。どういう思考で言葉を作るのか、その作業はどこで終わりを迎えるのか。言葉を決めるのはその人自身であるからこそ、磯崎さんの作品の裏側の作業を見ることができたのが良かった。

自分の内面を表に出すという点では、助産師として働く傍らで、執筆業・聞き書きをするナカヤマサオリさんも同じで、出産予定を10月初旬に控え、もうすぐ母になる過程で揺れ動く心を文章に表した。そもそも文章は印刷物に閉じ込めることが多く、展示形式での発表自体が珍しいことかもしれない。決して短くはない文章なのだが、ナカヤマさんの人生や母になる覚悟がそうさせたのだと思うが、何分も立ち止まって食い入るように見る来場者も少なくなかった。

「言葉」というキーワードのもと、自分の中にある言葉と外に向けて伝えるための言葉を学んだ受講者たち。「言葉」でどう表現するかが鍵かと思いきや、あえて言葉を用いないことで作風を強調する人も。特に映像や絵を表現手段とする作家は、自己紹介的な文章以外は、なかなか言葉にしづらい部分もあると推測する。
アニメーション作家のyamasakiさんは、3つの画面に、奇妙なフルコースが登場する皿とそれを口に運ぶ手が映し出された映像を制作。普通の料理には使わない色彩を使っていると言う。また、食べる所作に音が乗っているのだが、その音がどうも料理の絵と合わない。(例えば、ナイフで切る時の音が、まな板で包丁を使って切る音になっていた気がしたのだが……)。あえて色と音のズレを生じさせることで、「普通の食事」という既成概念が崩れ、食べること自体を考えさせられる作品だった。

2期「デザインとコミュニケーション」の受講生で構成された2階の展示は、鑑賞者参加型の展示が多く、まさに「デザインとコミュニケーション」というテーマに沿ったアウトプットが多かったように思う。

林業家でデザイナーの奥井彩音さんは、普段林業の仕事で入る森林の写真を展示。彼女自身はそこを「山」と呼ぶが、写真を見た人はその風景をどう感じ、どう呼ぶかをノートに書いてもらっていた。個人の価値観の枠だけでなく、より広い意味での「山」という概念、あるいは写真に映し出された風景そのものを捉えるための「言葉」が集められていたように思う。

個人出版社を立ち上げる予定の村瀬謙介さんも、何種類かの装丁デザインをした本のカバーを置き、好きなタイトルを書いてもらうことで来場者に「言葉」について考えてもらうアイデアをカタチにしていた。編集者らしい、さすがのアイデアだった。

『自己肯定感』と題した、自分を掘り下げるZINEを出しているにゃろめけりーさんは、どうやって「この私」が言葉を作っているかを知ってもらおうと、自分の部屋にあるCDや本、雑誌などを卓上にずらりと展示。鑑賞者はまるでその部屋にいるかのような感覚を味わえ、またそこから、よりいっそう作品にも興味がわく展示となっていた。

 

ここに挙げさせてもらっただけでも、本当に多様性のある展示だったことは疑いようがなく、見ていて飽きない内容になっていた。「言葉」というテーマに、それぞれが真摯に向き合った過程と結果を示すことで、言葉とは何か、向き合うことはどういうことかを来場者にも考えてもらえるような展示だった。非常に内容の濃い講座に食らいつき、最終的にこのような展示としてカタチにした受講者の皆さんに敬意を表したいと思う。
講座と成果発表展を通し、個人的にも改めて言葉について考えるきっかけを頂けたことに感謝したい。言葉とは何か。それは個人個人が考える世界を自分の中で整理し、人に伝えるために使う手段。そして、言葉それ自体もまた一つの表現となりうるもので、その位置づけは時代や年齢や状況によって如何様にも変化する。よって、言葉とは終わりなき旅のようなものなのか……。いずれにせよ、簡単に答えが出せるものではないし、正解もないのだろう。思考の迷路に入り込みそうになりながら、会場を後にした。きっと私も受講生たちも、このようにしてずっと「言葉」と向き合い続けていくのだろう。

成果発表会「ギャラリートーク」のレポートはこちら

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