プログラムPROGRAM

ことばの再発明
−鳥取で「つくる」人のためのセルフマネジメント講座−

フォーラム②〜成果発表企画

2021.02.12

テキスト:nashinoki / イラスト:蔵多優美

連続講座「ことばの再発明」の成果発表の一環として、受講生が鳥取県出身の芸術文化活動者と「表現とことば」ついて対話を行うフォーラムの第2回目が行われた。ゲスト講師は歌人の𠮷田恭大さん。今回は受講生のうち磯崎つばささん、中村友紀さん、ナカヤマサオリさん、水田美世さんが対話を行った。𠮷田さんは現在東京都在住、吉祥寺シアターで舞台制作の仕事に携わりながら、歌人として活動している。

前半はゲストが「作品と場」に焦点を当て、自身が短歌と演劇の分野で関わる様々な場の紹介を行った。まず短歌については、𠮷田さんは以前から文学フリマなど様々な場で発表を行っており、2019年に「いぬのせなか座」から歌集『光と私語』を刊行。また、自身で歌を作り発表するだけでなく、公民館を利用した「北赤羽歌会」、奈良の町家を使った芸術祭「はならぁと」でのスマートフォンを使いその場で歌を詠むワークショップ、ウェブサイトと実際の書店の棚を連動させた「うたとポルスカ」など、短歌を楽しむための様々な場を開く活動もしている。演劇については、劇団「アムリタ」などの企画へドラマトゥルクとして参加し、また、勤務先の吉祥寺シアターでは、劇場を使って何ができるのかというコンセプトで様々な企画を行っている。

講師の自己紹介の後は対話に移り、水田さんの進行で場が進んでいく。最初質問したのは、自身短歌を作っている磯崎さんと、演劇を実践するなかで言葉に関心をもつ中村さん。「なぜ戯曲ではなく、短歌なのか」というテーマに基づき、短歌と演劇の違いについて対話を行った。𠮷田さんは、自分の中に伝えたいことがそんなにたくさんあるわけではなく、短歌は三十一文字という制限があってそれをクリアすれば形になっていくので、そのあり方が戯曲より性に合っているのだと思うと答えた。磯崎さんは短歌の楽しみ方について、歌会で自分の意図と全くちがった解釈をされると楽しいと述べ、𠮷田さんも「言葉の素材を提供した後の『調理方法』はお任せで、自分が読む場合も、なるべく作品を面白がるようにしている」と答えた。また中村さんは、『光と私語』のデザインを全て自分でコントロールせず、装丁についてはプロに任せるやり方は、短歌の楽しみ方と似ていると発言した。𠮷田さんが最後に、短歌でも演劇を依頼して制作するときでも「読んで(観て)もらうことが一番楽しい」と答えたのが印象的だった。

自身も短歌を含めた様々な文章を書くナカヤマさんは、「ことばを書く姿勢と、ことばの届け方」について質問した。𠮷田さんの言葉はどこに向けて発されているのかという問いに対し、「『光と私語』あたりから、誰に向けてという対象を設定しないようにしている、作者としての『私』像を立ち上げたくない」と𠮷田さんは答えた。その理由として、自らの出自や人生などを表現し、はっきりした目的をもって書く作家に対し、自分にはそういうものがなく、だから「誰にでも通るような声」で、共感できるかできないかの匿名性の高いラインを模索していると説明した。また『光と私語』のデザインの新しさや一部無料公開など発表方法をこだわった理由を尋ねられると、作家としての知名度もなかったため、「海のものとも山のものともわからないものを道端に置いていて拾ってもらえるといい」と思ったと答えていた。

最後にウェブメディア「totto」を運営する水田さんが、「ご自身をかたち作ってきたもの」というタイトルで対話を行った。水田さんは、『光と私語』ではツタヤの延滞料金について詠んだ歌など、匿名性をもたせつつも作者の周りにいる人の気配をやんわりと感じるが、鳥取を含め周囲の歌人や演劇人からの影響はあるのかと尋ねた。𠮷田さんはまず鳥取について、歌会「みずたまり」や演劇と出会った「鳥の劇場」、また定有堂書店など、中高時代鳥取には教えてくれる大人がたくさんいて、その人たちから「当たり」の付け方、興味のある方向に対してどういう掘り下げ方をしたらいいのかを教えてもらったことが財産になっていると述べた。また作中の他者については、「きっかけになった具体的な出来事はあるが、歌の中ではそれが誰のものであったかは代替可能であった方が居心地がよいと考えていて、人間の『かけがえのなさ』を代替可能にすることで、体験や行為の『かけがえのなさ』を表現したい」と答えていた。その背景に「人間そのものより、人間がはめ込まれているシステムの方が素敵なものだと思っている」考えがあると話した。さらに鳥取の駅名に言及した歌から、自身の中での鳥取の位置づけについて尋ねられると、知っている土地以外は頑張らないと情景を作れないが、鳥取は住んでいた場所なので無理なく情景を詠める。負荷をかけない、「頑張っている感じ」が出ないことが重要と答え、ナカヤマさんの質問に続けて、ゲストの言葉を書く姿勢について、さらに掘り下げられたやりとりとなった。

また水田さんは、自身の運営する「totto」など、自分が面白いと思うものを他者と共有する場作りの魅力について、𠮷田さんにも近いものを感じると言い、自分だけでなく他の人に委ねていくのは新しい素敵なやり方だと思うと伝えた。𠮷田さん自身、もともと発信するより鑑賞する方が好きで、よりよい鑑賞の仕方を考える中で劇場や歌会に入っていったという。自分が面白い、いいという作品に出会える場を作りたいから歌会などをやっているが、「そのためにはいろいろなものを面白がれるようになっていないといけないので、いろいろな人とやっていくことが大事」「なるべく自分の価値観とちがう人間と一緒にいられるよう、趣味の合わない友人をたくさん持っておくようにしている」と答えていた。

最後の視聴者からの質疑では𠮷田さんだけでなく、磯崎さんや、お子さんと一緒に出演していた水田さんにも視聴者から質問があがった。第2回目となる今回は、それぞれ言葉で切実な表現を行う受講者が、𠮷田さんの歌や演劇に対する姿勢を手がかりに問い、どちらかといえば個人的な経緯などを排した、純粋な創作についての対話が行われているように思えた。そこには個性より他者が共感可能な匿名性を志向する、𠮷田さんの表現への姿勢も関係していたかもしれない。このフォーラムで提示された、表現や場を開くことへの新たな姿勢が今後どのような世界を開いていくのか、楽しみに思った。

フォーラム「鳥取で出会う表現とことば」〜「ことばの再発明」成果発表企画の概要はこちら

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