「平成の大合併」を問う住民投票 ―若年層の投票参加に着目して―

 

朝日新聞が2002年12月に実施した全国首長アンケートにおいて、住民投票条例の制定意向を問う質問に対し、「条例を制定する考えがある」と答えたのは485自治体(15.5%)に上った。この調査が行われた時点では、我が国における住民投票の実施件数はせいぜい20件程度であり、こうした首長らの回答にはやや半信半疑であった。だが、「平成の大合併」の急展開とともに住民投票をめぐる動きも加速し、2003年の一年間だけで市町村合併を問う住民投票は116件を数えた。

このうち、住民投票条例に基づいて行われた事例は83件あるが、その多くは首長や議会の提案によって実施されたものである。合併特例法の期限を2005年3月に控え、首長や議会が判断に迷う中で、合併問題をめぐる「最終判断」や「お墨付き」を住民に求めるケースが顕著に増えている。その一方で、住民の直接請求による条例案は否決されるケースが依然として多い。つまり、首長・議会と住民との間では、住民投票をめぐる意識にズレがあるという見方もできよう。

それを示すかのように、合併をめぐって行われた住民投票では、直近の選挙と比較して投票率が10〜20%程度落ち込む事例も目立つ。通常の選挙においても、投票率の変動には常に注意が払われるが、地域の重要案件をめぐって、ほとんどの場合一度しか行われない住民投票では、投票結果を「地域住民の総意」として捉えられるかどうかを測るうえで、投票率は一つの大きな目安となる。そうした意味合いから、「投票率50%以上」などの成立要件を設ける自治体も増えているが、投票率が30.19%と低迷した沖縄県西原町(2003年9月実施)など、投票不成立となったケースもこれまでに9件ある(2004年9月末現在)。

他方で、吉野川の可動堰計画が全国的な注目を集めた徳島市の住民投票や、産廃問題をテーマにした御嵩町などいわゆる「迷惑施設」の是非が問われた事例では、普段の選挙では棄権している若者が投票所に積極的に足を運んだことがしばしば注目される。また、住民投票と同じ案件が争点となった直近の選挙との間で投票結果を比較すると、合併関連の事例も含め、選挙における反対派候補の得票数が住民投票における反対票を上回った例は一つもない。このことについて分析を試みた塩沢(2004a)は、徳島市および御嵩町の年代別投票率のデータなどを用い、「反対」傾向の強い若年層で住民投票における投票参加の割合が上昇したことが、直近の選挙との投票結果のズレを生じさせていることを示した。

では、合併関連の各事例は、若い層でどの程度の関心を集めていたのだろうか。とりわけ、合併をめぐる住民投票は、将来にわたる市町村のあり方を問うものであるから、若年層における投票参加の動向を探ることの意義は、迷惑施設関連の事例と同様に、あるいはそれ以上に大きいと言えるだろう。本稿では、年代別投票率や年齢層による賛否の動向について示したうえで、未成年が参加した住民投票についても概観し、市町村合併を問う住民投票においても迷惑施設をめぐるケースと同様に、若年層の投票参加の動向が住民投票の成否を左右する大きな要因の一つとなりうることを明らかにしたい。