住民投票と首長選挙 ―両者の投票結果に見られる「民意のねじれ」とは―

 

近年我が国では、住民投票が全国的な関心を集めている。投票結果には法的拘束力が無いため、結果が出てもすぐに問題が解決されるとは限らない。そのため、住民投票にかけられた案件がその後の選挙、とりわけ首長選挙で重要な争点となるケースがしばしば見られる。そうした中、両者の関係に着目すると、興味深い点は二つある。

第一に、いくつかのケースにおいて、住民投票で反対多数となりながら、同じ案件が重要な争点とされたその後の選挙で、接戦、あるいは住民投票とは逆の「民意」が示される結果となった。例えば名護市では、住民投票で反対票の合計が賛成票の合計を2,372票上回ったが、その直後の市長選では、逆に賛成派候補が対立候補に1,150票差をつけて初当選した。この事例を含めて、住民投票の反対票を、その後の選挙における反対派候補の合計得票数が上回ったケースは一つも見当たらない。

第二に、両者を比較すると、住民投票における20-40代の投票率が高い。また、それらの年代の中でも、年齢層が低くなるほど、住民投票での投票参加の上昇率は高く、若い層ほど「反対」傾向も強い。例えば、巻町住民投票での出口調査によると、20、30代の女性の投票率が最も高かった(今井,1997,120)。また沖縄県民投票では、直前の世論調査で「日米安保条約の維持」について反対が賛成を上回ったのは、20代だけだった(『朝日新聞』1996年9月4日)。

第一点目に挙げた「民意のねじれ」とも呼ぶべき現象は、なぜ起こるのだろうか。一般に、地方自治体の首長や議員の選挙は、 住民投票のように単一のテーマを争点として戦われるものではなく、 選挙民は候補者の公約や人柄、所属政党等を総合的に判断して投票行動に出るものである(関東弁護士会連合会)。その他に、住民投票から選挙までの期間に、有権者が「心変わり」することも考えられる。また、各陣営の選挙戦術なども影響を与えているかもしれない。

しかし、こうした見方については、具体的なデータによる裏付けが少なく、「民意のねじれ」の部分的な説明に成功はしていても、完全に説明できているとは言い難い。「民意のねじれ」現象に対しては、前段で列挙したことに加え、先ほど、注目すべき第二点目に挙げた若年層の投票率が影響を与えていると考えるのが、合理的と思われる。

「反対」傾向が強い若者が住民投票には参加し、その後の選挙では「政治的に無関心な若者」に逆戻りして棄権する。すなわち、住民投票と選挙では各年齢層による投票参加の傾向が異なり、それが両者の投票結果のズレを生む一因となっている、というのが本稿の主要な論点となる。これについて、徳島市、岐阜県御嵩町の事例を中心に検証を試みたい