3択」に対する有権者の投票行動 ―広島県府中町の住民投票を事例として―

 

2002年6月9日、広島県安芸郡府中町で、広島市との合併についての是非を問う住民投票が行われた。この住民投票に関して、筆者およびリードが同年8月から11月にかけ、府中町民約2,000名(全有権者の約5%)を対象とした郵送調査を実施した。最終的な有効回答数は966件、転居・不着分等を除いた調査対象者に占める回答率は48.91%であった。

府中町の住民投票は、人口が5万人を超え市制要件を満たしていることから、「広島市との合併」に加え、「単独市制」「そのまま町でいる」という選択肢が設定され、「合併反対」との解釈が可能なこれら2つの選択肢を含む、3択方式で行われた。投票率59.14%で、「広島市との合併」49.9%(11,175票)、「単独市制」28.5%(6,383票)、「そのまま町でいる」21.6%(4,833票)となり、単独市と町制維持を足し合わせると合併賛成よりわずかに41票上回るという、微妙な結果に終わった。

和多利義之町長が投票直前に「単独市と町維持を合わせた数を『合併反対』と考える」と表明したのに対し、合併賛成派はあくまで「最多の選択肢を尊重すべき」とするなど、混乱も予想される中で住民投票は実施された。府中町を調査対象とした最大の理由は、この点にある。「投票結果の解釈」を議論することは本稿の目的ではないが、有権者が少なからず混乱する中で下した判断について観察することは、大変興味深い。

また、投票行動研究の観点からもう一つ着目すべきことは、住民投票条例制定から投票実施までの期間が短く、町民への情報提供に一定の限界があったという点である。府中町のケースでは、条例が可決、成立したのが4月22日であり、投票期日については「条例の施行の日から30日以内に実施」とされた。投票実施までの期間が短かったケースは府中町の他にも見受けられるが、投票前から「投票結果の解釈」が問題となったこの事例においては、有権者はかなり困難な選択を迫られる住民投票に直面していたと言えるだろう。

この他にも、町全体が広島市に囲まれているという地理的な特殊性など、着目すべき点は多い。以上のような複雑な状況下で、各有権者がどのようにして投票行動を決定したのかについて明らかにすることが、本研究の主要な目的である。