沖縄県民投票に関する計量分析 ―迷惑施設をめぐる有権者の投票行動―


二〇〇三年一〇月二六日、高知県日高村で、産廃処理施設建設の是非を問う住民投票が行われた。産廃問題が問われるケースとしては全国で六例目となるこの住民投票では、投票率七九・八〇%で、賛成票が六割を超える結果となった。いわゆる迷惑施設をめぐる住民投票で建設賛成という「民意」が示されたのは、初めてのことである。この投票結果は、村長の地道な活動や、計画に関わった県ならびに担当職員による情報公開の賜物と言えるが、迷惑施設をめぐる問題の解決のために住民投票をどう活用していくかという点において、重要な示唆を与える事例となるだろう。

ただ、賛成票を投じた日高村の住民も、産廃施設設置を全面的に受け入れているとは限らない。住民投票は基本的に「賛成」「反対」の二者択一で行われるため、投票に直面した有権者は “All or Nothing” の選択を強いられることとなる。したがって、諸手をあげて賛成はできないが今後を思うと反対もできない、といった両者の間で揺れ動く有権者にとっては、必ずしも「賛成」または「反対」への投票が明確な意思表示とはなり得ない。結果として、どちらを選択することもできず、住民投票を棄権する有権者が少なからず現れる場合もあるだろう。

例えば、基地と地域経済が密接な結びつきを持つ沖縄県で「米軍基地の整理・縮小と日米地位協定の見直し」をめぐり一九九六年九月八日に行われた住民投票では、各市町村の投票率に大きな格差が生じている。我が国でこれまでに行われた住民投票は、とりわけ迷惑施設をめぐるケースにおいては総じて有権者の高い関心を集めてきた。直近の選挙と比較すると、他の各事例では投票率に大きな開きがある事例は少ないが、それに対し沖縄県民投票では、直近の選挙と比べてもかなりのばらつきが見られる。この投票率格差については澤野(二〇〇三)が、各市町村における基地の有無などに着目して分析を試みているが、後述するように澤野論文には、ほぼ全て基地に関連する変数しか投入されていないなど、分析モデルにいくつかの問題点が見られる。県民投票の市町村別投票率は、単純に基地との関わり合いだけに依存するとは限らず、各市町村における日頃の政治意識の高さや、地域性なども考慮に入れなければならない。

本稿の目的は、直近の選挙との比較分析を中心に、迷惑施設建設を問う住民投票における投票参加の動向について概観し、それを踏まえて、澤野論文における分析上の問題点を改善・修正しながら、沖縄県民投票の投票率格差をより的確に説明することにある。そのうえで、市町村別の賛否についても分析を試み、最後に住民投票において有権者の投票行動を規定している要因に関して、考察を加えたい。