同日実施された住民投票・市長選挙の分析

―大阪府高石市における調査データをもとに―

 

2003年4月27日、大阪府高石市で、堺市との合併の是非を問う住民投票が行われた。この住民投票に関して、筆者およびリードが同年7月から10月にかけ、高石市民約2,000名(全有権者の約4%)を対象とした郵送調査を実施した。最終的な有効回答数は814件、転居・不着分等を除いた調査対象者に占める回答率は41.3%であった。

高石市の住民投票は、「合併に賛成」「合併はやむを得ない」「合併に反対」の三択形式で行われた。投票率は72.55%で、「合併に賛成」6,225票(18.1%)、「合併はやむを得ない」2,617票(7.6%)、「合併に反対」25,514票(74.3%)と、反対票が圧倒的多数を占める結果となった。これと同時に市長選挙も行われ、合併推進を掲げて四選を目指した現職・寺田為三(66歳・無所属)と、合併反対を訴える前市議会議員の新人・阪口伸六(46歳・無所属)との一騎打ちとなり、合併問題が市長選の最大の争点となった。投票の結果、寺田の11,645票に対し、阪口がその倍近い22,559票を獲得し初当選を果たした。

高石市の住民投票条例は2002年9月、当時の市長・寺田の提案により議会に上程され可決された。住民投票と市長選の同日実施には、合併問題を市長選の争点から外したいという寺田の思惑があったが、結果的には、市長選においても堺市との合併の是非が最大の争点となった。実際の投票結果を見ても、2つの投票の間で「民意」は一貫していたと言える。そこで、本稿ではまず一点目に、住民投票における「合併に反対」および市長選における阪口への投票理由に着目したうえで、「合併に反対」への投票を従属変数としたロジスティック回帰分析を行い、2つの投票における投票行動の一貫性について検証を試みたい。

一方で、住民投票で合併反対票を投じた有権者の中には、市長選で合併反対派の阪口に投票せず推進派の寺田に投票した人が少なくとも3,000人程度いた計算になる。割合にすると、全投票者の8%以上の有権者がこうした「分裂投票」を行ったと考えられる。分裂投票がもたらす投票結果のズレについては、端的に言って「政策」か「人」かという両者の投票対象の違いが影響していると、これまで多くの研究者によって解釈されてきた(新藤・沼尾・田村・大山・山谷・村上,1999;中田,1999;バッジ,2000;上田,2003)。塩沢(2004)もまた、この点に着目して分析を試みているが、そのいずれの発生要因についても具体的に明らかにするには至っていない。本稿における二つ目の着眼点として、分裂投票を行った有権者に注目し、やはり各投票における投票理由やロジット分析の結果を踏まえて、検討を加えることとする。