プログラムPROGRAM

ことばの再発明
−鳥取で「つくる」人のためのセルフマネジメント講座−

講演③ 榊原充大×篠田栞

2020.09.18

テキスト:藤田和俊 / イラスト:蔵多優美

「言葉」とはなんだろうかー。普段だれでも使うものなのに、この講座の中でも何度も自問自答するほど容易に答えが出ないものだ。その難解な問いに挑戦する「ことばの再発明」の2期が始まった。この講座は自分自身の内外に向け、「言葉」の意味や役割と向き合うもので、1期がより内(自身)にある言葉に向き合う内容であれば、この2期は「デザインとコミュニケーション」と題し、外(他者や社会など)に向けて発信していくために考える内容だ。
1回目の講師には、榊原充大さん(建築家/リサーチャー)と篠田栞さん(仮面劇作家/言葉と企画)の二人をお呼びし、約35人が受講、聴講した。様々なプロジェクトを巧みな言葉で交通整理する榊原さんと、人の内側に秘められた言葉をうまく引き出して外へのチャンネルを作る篠田さん。それぞれの活動紹介から興味深く、その後は「あなたに伝えるための言葉」をテーマとして、言葉のプロフェッショナルによる対談が進んでいった。

課題を解決し、対話の交通整理をするための「言葉」


榊原さんは、大学時代に文学部でありながら建築を研究対象にし、建築物よりも建築の背景や歴史といった文脈に関心があったという、異色の建築家。自身を設計者でも研究者でもなく「リサーチャー」と定義し、2008年に建築リサーチ組織「RAD」を立ち上げ、2019年には株式会社を設立した。地域移動型短期滞在リサーチプロジェクト「RESEARCH STORE」(2011〜)や、古い地域の写真と住民の記憶を蓄積する「斑鳩の記憶アーカイブ」(2012〜)などを企画。その後も大学や地域の建築物のディレクションなど活動を広げている。
建築物を建てる地域のことを調べ、住民の声を聞き、建てるまでのストーリーを言葉にしてまとめていくのだが、実は言葉の使い方はもう一つある。「行政や市民や設計者といった違う立場の対話の交通整理をすること。課題を言語化して整理して解決へと向けて進めていくので、言葉を扱う比重はどんどん大きくなっている」。榊原さんは、本質的な目的に軸を持たせるために言葉を扱い、さらにそれを誰かに伝わりやすいように伝えるための言葉へと変換する作業を行っているようだった。

あなたらしさを掘り上げ、人に伝えていくための「言葉」


本講座の企画者である佐々木さんの言葉を借りれば、榊原さんが「3者間の言葉」を扱うのであれば、篠田さんは「2者間の言葉」を巧みに扱う人だ。大手広告代理店でプロデューサーとして勤め、この春から独立してフリーランスでライターや企画、編集までをこなしている。そして、忘れてはならないのが「仮面劇作家」という肩書き。幼少期から演劇を続けてきた経験を活かして、物語を生み出す過程で言葉を編んでいる。
「みんな自分たちらしさが何かわからないことが多い。説明するための一般的な言葉は使われすぎている」と篠田さん。この講座の目的でもあるセルフブランディングのためには、自身のことを知らないことには始まらない。篠田さんは様々な珍品を陳列するオレ・ウォルムの「驚異の部屋」などを例に挙げた。「自分の好きなことが陳列された博物館や、もしくは自分の葬式や回顧展を考えてみてください」。子ども時代の記憶やコンプレックスまで紐解きながら、自分の選択には必ず理由があり、それこそが「独自性」であると話した。

対談


それぞれの活動紹介と言葉に対する考えを聞いた後は、二人の対談と質疑応答が行われた。
榊原さんからの「言葉の捉え方が違いますね」の第一声から対話がスタート。「僕にとって言葉は伝えるための手段。相手がどんな人か、どうやったら伝わるか。目的を勝ち取るために使いますが、篠田さんは自分の言葉をどう整理していくか、なのかなと思う」と言う榊原さんに対し、「相手の文脈を汲み取って伝えることは大事。その上で、自分が挑戦したいと思っているのは、その人が人として何を持っているかを聞き出すこと」と篠田さん。
「榊原さんは翻訳者だと思う。私の場合はどうやって個人に寄せていくかがテーマですね」と話す篠田さんは、その人自身も気づけていないような心の奥底にある言葉を拾い、そこから物語を生むイメージだった。一方の榊原さんは「僕は個人という考えはあまりなく、仲介の立場にいると思っている」。リサーチャーというだけあって、多方面の情報や声をバランスよく聞き取り、全体を俯瞰したストーリーを伝えていく人だ。
質疑応答の最後は、言葉を届けるために必要なことについての質問が寄せられた。クライアントが誰に向けて伝えたいかあやふやな時はどうするか、と受講生が質問。榊原さんは「とにかく聞くことを重視する。あやふやな場合は、組織の論理が働いて担当者個人の意見が全くないみたい場合が多い。それだと言葉自体に責任感がなくなる。言葉の重みは、そこに人がいることが大事」と話した。篠田さんも「本当に伝えたいことがあるかが大事で、それを探すために他の事例や具体をぶつけてみて近い像を詰めていく作業をする」とアドバイスし、ここで対話の時間は終了となった。

 

内の言葉を整理する篠田さんと、外への言葉を整理する榊原さん。一見、タイプの異なる二人だが、実は共通項があるように感じた。それは二人とも向かい合うものの「本質」がどこにあるかを大事にしている点と、そして徹底的に「聞く」ことだ。その人らしい言葉があって初めて誰かに響くのであって、その次に、それを誰にどのように伝えていくかが求められる。二人の話からは、人が持つ本質や本音こそが「言葉の重み」になることが感じられた。内にある言葉を紡ぐことと、発信するための言葉は実はちゃんとつながっている。内側に言葉を掘り下げていく1期と、言葉が誰かに届くまでをデザインする2期のつながりも学ぶことができた初回となった。

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