プログラムPROGRAM

ことばの再発明
−鳥取で「つくる」人のためのセルフマネジメント講座−

講演② 大林寛×西島大介

2020.09.11

テキスト:野口明生 / イラスト:蔵多優美

連続講座『ことばの再発明 −鳥取で「つくる」人のためのセルフマネジメント講座−』の1期「アートとことば」2回目となる今回の講演に登壇するのは、クリエイティブディレクター / 編集者の大林寛さん、漫画家の西島大介さんのお二人。
オンライン会議システムであるZoomを利用して行われ、1期受講生のほか、事前申し込みにより講演のみを観ることができる聴講生ら合わせて約40名が参加した。
講演は前回同様、前半に大林さん・西島さんがそれぞれ自身の活動を紹介し、後半は「わたしとことばの距離感」というテーマでの対談という形で進行した。

自身の会社で企業やサービスのブランディングデザインを専門に行う大林さんは、様々なデザイン領域を実例とともに紹介しながら、本講座のテーマにちなみ、各領域に潜む“言語性”について語った。
ユーザーにとってのブランドとの関係をデザインする「エクスペリエンスデザイン」については、ユーザー(S)と対象(O)との間に行動(V)という注目すべき要素があり、英語のSVO構文として捉えた時にそれが連続するようにデザインを考えるのだという。
また、ユーザーが対象を“発見”し、それを“選ぶ”までをデザインする「インターフェースデザイン」については、名詞・指差し・ジェスチャーを中心に会話をする言語「ピジン語」の性質に近いことを挙げ、言葉をなくすほどその特性が高まる“反言語性”があることに触れた。
筆者含め、デザインの話題に初めて触れる聴講者も多かったと思うが、ピジン語性のように言葉から離れていく指向の存在によりさらに言葉が意識されることなど、専門性の高い分野の中にも「ことば」を介した共通性が感じられ、知的好奇心が刺激されるプレゼンテーションだった。

西島さんは、2004年のデビューから漫画家として歩んできたこれまでのキャリアを振り返る形で、自身の活動を紹介。
ベトナム戦争をテーマに描いた代表作『ディエンビエンフー』の連載が出版社都合により継続できなくなったことをきっかけに、西島さんは自身で個人電子出版レーベル「島島」を立ち上げることになる。「有名誌での連載を目指して漫画を描く仕事」という一般的な漫画家のイメージを大きく超えて、「自分で自分を運営する」活動に足を踏み入れていった西島さん。作品をコンビニエンスストアで販売されるペーパーバックで出版したり、キャラクターデザインを手がけるほか、令和元年度文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業を活用し、文化庁の支援を受けて制作した電子書籍『世界の終わりの魔法使い』では、同作の二次創作やグッズ制作を誰もが行える仕組みを提供することを試みた。これは「そもそも文化庁はなぜこのような支援を行っているのか」という問いを自ら立て、クリエイティブ・コモンズのように権利を解放し、誰もが自由に使える作品を作るという発想を得てのことだったという。
「道無き道を歩いてきた」と自ら語る西島さんの活動紹介は、その言葉にふさわしい独立独歩の記録であり、自身の作家活動の今後を考える聴講者は、大きな勇気をもらったのではないか。

大林さんと西島さんが互いの活動紹介を終え、続く対談パートでは、お二人に共通する出版の話題を中心に話が始まった。
西島さんは「漫画家として商業的に行き詰まった時に、電子書籍の制作や権利の運用などに取り組むようになった」と語り、大林さんが同じくデザイン領域で広範な活動をするようになったきっかけを尋ねる。大林さんは「具象と抽象を行き来するような思考に関心があり、その思考プロセスを言語にしたいという思いがあった」として、自身が編集長を務めるデザイン思想系メディア「ÉKRITS」(エクリ)立ち上げの経緯を紹介した。それを受けて、あるテーマについて第三者的に言葉で語る「ÉKRITS」のような場所は日に日に少なくなっているという意識があると語る西島さん。自身は漫画のコマ割りや奥付をはじめ、ひいては商業の意味や法人の存在など、あらゆるものに対して「それがあるのはなぜだろう」とまず考えてしまうと言う。ここにも、一つ一つを自分で確かめながら活動を進める西島さんの姿勢がうかがえる。
聴講者から寄せられた「ブランドと自分の関係について、作品を売るというのは自分自身を売ることと同一と思うか」という質問に、大林さんは「自分とブランドは、矢沢永吉とYAZAWAのような距離感(笑)。元々は自分から出てきたものが、少しずつ自身を離れて異なるイメージになっていくもの」として、ブランドは自分自身とは異なるが、もっとも近くで理解できる対象として捉えていると言う。一方、西島さんは作品と自己はほぼ直結しているとしながら、出版レーベルを自身で立ち上げた経験を振り返って、「作品を流通・販売させるという立場に立った時、初めてブランディングを意識するようになった」と語った。

 

その他の質疑応答も話題性に富み、講演は時間をオーバーして幕を閉じた。
前回の白井明大さんと後藤怜亜さんの講演とはまた異なる雰囲気に、両講演を聴講した人は驚いたのではないだろうか。同じテーマに軸足を置きながら、別のベクトルで充実の議論が展開される、これもまた「ことば」という普遍で根本的なテーマの面白いところだろう。
また特に今回は、自身の活動についての具体的なブランディングの方法論についてなど、本講座のタイトルにも含まれる「セルフマネジメント」にかかわる話題にも、結果的に多くの時間が割かれた。それはデザイン/漫画というそれぞれの領域で独自性の高い活動を続けてきたお二人だからこそだったのであろう。

以上、計4名の講師による2回の講演と、別日程で行われた各講師との対話(非公開)を経て、受講生たちは9月の成果発表展に向けて準備を進めていくことになる。

 

坂間 菜未乃さん(OVERKAST)による講演のグラフィックレコード





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