プログラムPROGRAM

ことばの再発明
−鳥取で「つくる」人のためのセルフマネジメント講座−

成果発表会「ギャラリートーク」

2020.10.23

テキスト:野口明生 / 写真:藤田和俊、平木絢子 / イラスト:蔵多優美

7月から9月にかけてオンライン上で開催された連続講座「ことばの再発明−鳥取で「つくる」人のためのセルフマネジメント講座−」。1期「アートとことば」、2期「デザインとコミュニケーション」のいずれかに参加した受講生らの作品が一堂に介する、成果発表展「ことばの再発明×18展」が9月25日〜28日に鳥取市の「ギャラリーそら」で開催された。
そして、会期中のプログラムとして企画されたのが今回のギャラリートークである。当初は一般公開を予定していたが、新型コロナウイルス感染防止の観点から受講生及び関係者約25名が参加するクローズドイベントとして実施した。

テーマは「空間の言語/インストールの技法」。「ことばの再発明」は、自身の作品や活動を適切に言語化して他者に伝えることを考える講座として実施。その成果発表は「展示設営(インストール)」という形で自らの表現を物理的な空間に配置していくことであり、これは他者に対してどのように伝えるかという「ことば」の延長線上にあるテーマであると言える。

今回の講師は、東京都写真美術館学芸員の多田かおりさんと、新宿眼科画廊ディレクターの田中ちえこさんのお二人。トークの冒頭、本講座企画者のひとりである佐々木友輔さんは、講師を依頼した理由について、お二人が多様かつ複合的なメディアを扱うコンテンポラリーアートの作品展示に多く立ち会ってきたことを挙げた。今回の成果発表展もまた、受講生らが各自の表現を多様なフォーマットで示した展示となった。


トークは、受講生らが集まる展示会場と、講師のお二人及び会場に来ることができなかった受講生を、オンラインでのビデオ中継でつなぐ形で行われた。受講生は各自5分程度、展示についてのプレゼンテーションを行い、講師の二人より講評をいただく形で進行した。以下にその様子をいくつか紹介したい。

 


painterのexkeeeさんは、《Lisa》と題した「自分の角度から見たモナリザ」を180センチ四方の板に迫力の色彩で描いた大型の作品を展示。自身の作品のコンセプトをなかなか考えられず講座に参加したというexkeeeさんは、プレゼンの場で「多様な角度から物を捉えることや色の混じり合う瞬間を大切にする」「計画性や正確さに抵抗するために、その時に出会う線や形、色を自由に描いていく」と講座を通じて考えた自身の活動コンセプトを発表した。田中さんより今後の方向性について問われると、「講座を受けて、自身の今の作風をさらに突き詰めていこうと思った」という。 両講師に「まさに言行一致」と言わしめた、プレゼンテーションをする本人の表情と作品のパワフルなキャラクターに、今後を楽しみに思った。

exkeeeさんのように、講座を通じて、改めて活動の方向性を自身で再確認・再設定した受講生も多かっただろう。また、普段は作品として展示されることがないものを展示した受講生も多数いた。「ことば」というキーワードの下に受講生らが集まった本講座ならではのことである。


本来は目でしか受け取れないイメージを音声で伝える、舞台芸術やイベントの音声ガイドの制作をしている田中京子さん。視覚障がい者などの鑑賞を補助する音声ガイドという職業自体の認知向上と、自身が感じている音声ガイドそのものの作品性をどのように展示するのか、大変悩んだという。最終的には、音声ガイドをつけた映像をディスプレイとヘッドホンで鑑賞できるようにし、手書きで校正した台本などの資料と併せて展示をした。多田さんは音声ガイドの展示について「自分にとって全く新しい存在。(音声ガイドを聞くことが)コンテンポラリーダンスの新しい鑑賞方法になるかもしれない」と驚き、田中さんは「展示として文句ない。一番興味がそそられる形なのではないか」とその展示方法を評価した。


アートイベント運営などを行う企画者の井澤大介さんは、自身の活動を通じて関心を持ってきた“人”にフォーカスする展示を用意した。ギャラリーを巡って収集してきたポストカードのアーカイブ、仲間達と共に運営する「深夜の美術展in鳥取」の様子、鳥取大学美術部在籍時より心理学やコミュニケーションに関心を持って制作した作品などをまとめて展示した。
多田さんが「生活や美術に対する意識がとてもはっきりわかる」と井澤さんが今回のために制作したキャプションのわかりやすさに触れると、田中さんは「自分が好きな“人”についての興味が伝わる展示」と評価。過去に同ギャラリーで何度も展示をしてきたという井澤さん自身も「講座を通じて自身でも今までで最も満足のいく展示ができた」と笑顔を覗かせた。

演劇を学ぶ鳥取大学地域学部4年生の中村友紀さんは、講座を通じて新たに制作した詩「ことばとからだ」を展示。会期中、作品の前で自身で詩を読むパフォーマンスを行なった。
多田さんは詩について「すごく練られたことば。今回の展示全体を包むようなことばでもある」と言う。田中さんは「パフォーマンスを見て作品への興味が出た。次の作品が楽しみになった」とパフォーマンスとの組み合わせを評価した。中村さんは「パフォーマンスをした時は相当緊張していた」としながら、「このくらいの規模の小さな演劇を続けていきたい」と今後の展望にも触れた。

 




オンラインで各地を繋いでのトークはその展示作品数もあり大幅に時間を超過して終了した。
今回受講生らは、約2ヶ月という大変短い期間の中、オンラインで講座を受講し、内容を検討し(場合によっては新たな作品を作り)、実際の展示プランに落とし込んだ。結果、意図した通りに展示をできた受講生も、そうでなかった人もいるかもしれない。また、現地で展示設営を行えない受講生がいるなどコロナ禍の時期ゆえの事情もあり、成果発表展の開催自体も一時は危ぶまれた。これらの困難の中でも、受講生・運営ともに、次々迫られる〆切の中で最善の判断を行い、今回の展示の実施に漕ぎ着けることができた。これは、小さくても確かな点を打ち続けた結果である。

これからも我々は、その時々に表現をし、その時にしか紡ぐことができない「ことば」を残していく。そうやって何度も立ち止まり、自身の表現の横で「ことばの再発明」を繰り返しつづけることは、表現者に必要な営みに他ならない。この営みは螺旋階段のように、同じ場所をぐるぐると回っているように感じられるかもしれないが、根気強くつづければ、いつか、とても高い場所に立っていることに気づくだろう。今回の講座をきっかけに、受講生の中からそのような高みに登っていこうとする人が現れることを期待したい。
今回、展示を用意し、自身の「ことば」でプレゼンテーションを行う受講生らの姿を見て、そのようなことを考えた。

成果発表展「ことばの再発明×18展」のレポートはこちら

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