プログラムPROGRAM

09-1: 地域の記憶を記録する−メディア編

7月定例ゼミレポート(金川)

09-1: 地域の記憶を記録する−メディア編 7/18開催レポート(金川)

2020.03.24

テキスト・写真:金川晋吾


 鳥取大学で佐々木くんと待ち合わせ、電車に乗って松崎駅へ。鳥取では電車ではなくて汽車と言うのだと教えられる。「電車」と口にすると「汽車ね」と訂正されるらしい。鳥取の電車には電線があるわけではないので、電車ではなくて汽車と呼ぶらしい。汽車というと蒸気機関車を思ってしまうが、蒸気ではなくてガソリンで走っているとのこと。

 1時間ほどで松崎駅へ。駅を出ると、「歓迎 東郷温泉」というアーチ状の看板の向こうに海が見える。歩いている人の姿は見えない。もうだいぶ暗くて空と海がうっすら赤い。5分ほど歩くと会場の「たみ」に着く。たみのなかでは撮影できないということなので、歩いている途中に目にしたものやたみの外観などを、撮っておいてもどうせ使わないだろうと思いながらとりあえず撮っておく。

 広めの部屋に学生というか若者が20人ぐらいいた。なかには若者でない人もいるが、若者のなかにまぎれるとその人が何歳なのかよくわからなくなる。あとからそれが先生だとわかる。先生でない人もいた。その女性は地域振興的なことをやっているNPOから研修で来ているとのこと。その人の自己紹介ではいろんなワードが出てきて、タロットカードという言葉も聞こえたような気がした。占いができるということだろうか。姿勢もものすごくいいので瞑想などもやってそうに見える。自分が大学生のころにインド旅行やヴィパッサナー瞑想センターに行っていたときのことを思い出す。この部屋自体の雰囲気がそういうことを思い出させもする。その女性に話しかけたいと思っていたが、研究会の終了間際にその人は帰ってしまったので話せなかった。

 今期のにんげん研究会では有名でない人にインタビューをするということをやっていて、今日はそれの2回目ということだった。じゃんけんで3つのグループに分かれて、2グループは別の部屋へ。自分も2階の別の部屋へ移動する。その部屋は床置きの赤っぽい電灯ひとつが真ん中に置かれているだけで、ほの暗い。その電灯を取り囲むように輪になって座る。修学旅行のようだと思う。

 6人の学生がインタビューについての発表をする。インタビュー相手は、自分が出演する演劇を見たことで演劇に興味をもった同世代の大学生、岡山のジーンズ会社の常務、目が見えない人、地元の写真屋、詩や小説を書いていて共同制作をしたこともある友人。別の部屋をのぞきにいっていたので一人の発表は聞き逃す。

 学校の授業とはまた異なる雰囲気で、この場を作っているのは自分たちなのだという気概のようなものが学生たちから感じられる。ただ、どこかやらされているというと言い過ぎだが、本当にやりたいことをやっているという感じではないような気もする。学校ではないのだから、もっとやりたいように好きなようにやったらいいのにと思う。と同時に、それはそのまま自分にもあてはまることだとも思う。自分はもう38歳で、彼らよりも自分のやりたいことを好きなようにやろうと思えばやれる状況に置かれているのに、なんとなく我慢したり後回しにしたりしているうちに時間が過ぎている。

 別の部屋にも移動してみる。一人の学生がおそらく鳥取大学の先生で何か作品をつくっている人について発表をしている。インタビュー対象が大学の先生で作品をつくっているような人でいいのだろうか、そういう人は語るべき言葉をもっているので趣旨がちがってこないか、と思う。でも、話の内容はおもしろかった。

 その先生に自分の作品のなかでとくに気に入っているものがあるかと尋ねると、その人は即答で「ない」と答えた。そして、「作品にいい悪いとか作家にいい悪いとかはない、作品が後世に残るものになるかどうかは運でしかない」と語ったとのこと。学生に向かってすごいことを言うなと思う。その言葉を口にしているときその人がどんな顔をしていたのかが気になる。

 研究会を通して印象的だったのは若者たちの顔だ。それがどういう顔なのか、その顔が何をあらわしているのかなんて本当は誰にもわからないが、溌剌として元気が漲っているという印象ではなかった。反抗的で怒りに満ちているというのでも、絶望しているというのでもなかった。どこか所在なさげでさまよっているような感じがあったが、その感じに好感がもてた。満ち足りていない感じがよかった。でも本当のところはそもそもみんなちがう顔をしているので、こんなふうにまとめてしまうことは無茶苦茶な話だ。

 にんげん研究会にも参加している佐々木ゼミの学生さんたちに鳥取を案内してもらったのだが、そのあいだに投票を間近に控えていた参議院選挙の話をした。選挙とかに興味はあるのかというこちらの漠然とした質問に対して、はじめはどんなふうに話せばいいのかわからずに戸惑っているようだったが、こちらがしつこく尋ねると実はもう期日前投票に行っていて、テレビのニュース番組でやっていた党首討論を見たときの印象で投票先を決めたのだと答えてくれた。安倍さんは質問にも全然ちゃんと答えていなくて、マジで何を喋っているのか全然わからなかったので、この人はやばいと思った。おにぎりのたとえ話をしている人の話がすごくわかりやすくてそこに入れようと思ったけども、自分の地元にはその党はなかったので別の人に入れた、とのことだった。この話がとても印象的だった。あとで調べると、おにぎりのたとえ話をしていたのは国民民主党の玉木代表だった。

 帰りの飛行機のなかで、もっと学生たちの写真を撮っておけばよかったと後悔した。たみのなかで撮れなくても、撮る機会はいくらでもあっただろうに。次回はもっと撮ろうと思っている。

 

金川晋吾(かながわ・しんご)
1981年京都府生まれ。写真家。神戸大学発達科学部卒業。東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。三木淳賞、さがみはら写真新人奨励賞受賞。2016年青幻舎より『father』刊行。近年の主な展覧会、2019年「同じ別の生き物」アンスティチュ・フランセ、2018年「長い間」横浜市民ギャラリーあざみ野、など。2020年文化庁新進芸術家海外研修制度でアメリカに渡航予定。

プログラムトップへ