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05: 地域における芸術・文化事業を評価しあおう

開催レポート

05: 地域における芸術・文化事業を評価しあおう 開催レポート

2020.03.27

テキスト・写真:藤田和俊

 概論編の最終回は、前回に引き続いて有福さんの講座だった。前回から、鳥取の地域色を生かした芸術・文化事業を3〜4人ずつのグループに分かれて企画を作り、さらに宿題で内容を詰めてもらった。この日は2時間にわたり、他のグループから評価や助言を受けながら、企画をまとめていった。有福さんは「議論ではなく、対話を大事にしよう」と強調し、評価する側も「支援者」と呼ぶなど、建設的な対話を大事にされた。この2回の講座を通し、一つのプロジェクトを人を巻き込みながら作り上げていく方法論や思考を学べ、芸術・文化事業に限らず、他分野でも応用できる内容だった。

▽Step1 イントロダクション

各グループによる宿題の発表の前に、アイスブレイクのディスカッションタイムが設けられ「10mの立方体に、一人を入れてできるだけ長生きさせるために必要なものは?」という問いについて話し合った。制限時間のある話し合いの終わりには、有福さんが静かに手をあげ、気づいた人が手をあげて話をやめるという決まりがあるのだが、こういった手法も全体の温度感を合わせ、対話を活発にしていく効果的な技だった。
会場の空気も温まり、6つのグループがそれぞれ5分程度で宿題発表していった。

各グループの掲げたテーマと内容は以下のとおり。

1、子ども芸術家が爆発
制約が多い環境でなく、自然の中で、子どもたちに自由に自分の表現を形にしてもらう。場所は鳥取大学内の自然のある場所。
 
2、夜の天体観察会復活拡充
星に興味がある人もそうでない人も、夜の星空観察を楽しんでもらう。音楽や読み聞かせなど企画を組み合わせて魅力を伝えていく。
 
3、感涙の劇場
自分たちだけでなく、地域が一緒になり、非日常の演出で感動を巻き起こす。演奏者にも地域に長く滞在してもらったり、曲に対する理解を深める講習会なども開催。
 
4、秘密基地つくり隊in鳥取
鳥取の山、海、町の中に秘密基地を設置してヒントを手掛かりに探す。周辺の風景を感じてもらいながら、地域に誇りを持てるようにする。
 
5、鳥取音楽祭
様々なジャンルのアーティスト間の交流を狙う。クラシック、バンド、声楽などジャンルを混ぜながらのステージを作る。
 
6、トリコミ
まんが王国をうたう鳥取県ならではの、オールジャンルの同人誌の即売会を鳥取大学でやる。

▽Step2 他のグループから助言

物事を考えていく時に、どうしても視野が狭くなりがちで、打開策となるのが他の視点となる。各グループのリーダーだけがテーブルに残り、それ以外は他のグループに移動して、意見を出し合った。ここで大事なのが、批判することでなく、客観的にアドバイスをする「支援者」となることだ。話す内容も3段階に分け、「この企画で本当に大切していることは?」「この企画の実現に向けて不足していることは?」「この企画の実現に向けて、最初に取り組むことは?」と進んでいった。同じ内容を3度繰り返して似たアドバイスが集まるよりも、段階によって変えていくことも効果的だった。

「企画が大切にしていること」はまさに企画の軸となる部分であり、軸がぶれると進めていくときにメンバー間のずれや課題が生じやすくなる。「企画に不足していること」は言葉の通りで、資金面など現実的な課題になるポイントにちゃんと目を向ける作業だ。そして、3つ目の「最初に取り組むこと」は、実現に向けて行動していくことが一番大事なことで、「周りに企画の熱意を伝える交流会をしてはどうか?」や「地域の人の理解を求める作業をまずやるべき」などが挙がっていた。

▽Step3 講評する

これらのステップを踏み、グループ内で最終的に意見をまとめて最後に発表したのだが、様々なアドバイスを踏まえたことで軌道修正され、企画もブラッシュアップされていた。「企画内容が大きすぎた。まずは地域を絞ってやっていくことにした」と取り掛かる規模を見直すグループもあれば、「鳥取大学でやろうと思ったが、無理にこだわる必要がなかった」と企画の趣旨に立ち戻ったグループもあった。

最後に、有福さんは「成功しているイメージを描き、具体的に落としこんでいき、何から取り組んでいくのかを考えること。闇雲に積み上げるのではなく、他のメンバーからアドバイスをもらってどういうことを目指していたのかを忘れないようにしてください」と話し、講座を閉じた。

5回にわたる講座も今回で終了し、皆勤賞の30代男性に感想を聞いたところ、「アートは自分と無縁だと思っていたが、物事を捉える視野を広げたいと思って参加した。アートは突拍子もないものではなく、人間への深い理解や緻密な設計もある。そしていろんな視点で、世の中の切り取り方があったり、コラボレーションを生み出していける可能性も感じた」と充実した様子だった。

芸術・文化とは何か。その問いかけから参加者は自分自身に向き合い、それと社会をつなげていく可能性を探った。夢を描くだけでなく、具体的な企画の積み上げ方まで学べたことで、多くを持ち帰った人も多いだろう。芸術・文化は、現代の社会にとって新たな価値観を創造していくものであり、人をつなげていく大きなコンテンツである。それがわかった貴重な講座だった。

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