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02: 高齢者による舞台芸術の可能性を探る

開催レポート

02: 高齢者による舞台芸術の可能性を探る 開催レポート

2020.03.27

テキスト:五島朋子 / 写真:藤田和俊

ミラー氏は、地域社会にとって演劇がどのような価値を持つかを常に考えてきた。大学で演劇を学んだのち、スコットランドのダンディーにある劇場で仕事を始め、その後、様々な年齢・バックグラウンドの一般市民と演劇作品と作る経験をしてきた。

近年は、50歳以上の中高年とともに舞台作品を作るプロジェクト “The Flames”(炎)を、スコットランド各地で展開している。スコットランドの文化政策が、「平等、社会的包摂、多様性」を標榜していることもあり、活動には社会的な追い風が吹いているという。“The Flames”では、台詞や台本をあらかじめ用意することはなく、作品作りは質問から始まる。たとえば、「最後に踊ったのはいつですか?」とか、「人生におけるリスクとは何か?」というような。ミラー氏が想定もしないような驚くべき答えが返ってくることもあるという。

「ゲリラ・セッション」と呼ばれるThe Flames の作品作りはスピーディーだ。5日間のワークショップで、いくつかの質問に対する参加者の答えをもとにシーンを作り、そこに映像作家と音楽家が参加する。6日目に一つにまとめあげ、7日目に通し稽古、8日目にマチネとソワレの2回上演で終わる。こうして上演される50分ほどのパフォーマンスは、参加する中高年一人一人の人生や個性を反映するものとなる。

「高齢者」はイギリスでは、社会の中で「見えない存在」になってしまっているとミラー氏は指摘する。一方、老年期は、青少年期と同じような人生における大きな転換期であり、改めて自分を見つめ直す時期ではないか。「それゆえにこそ非常に興味深い演劇作品が生まれる」と語った。また、参加者はそれぞれの人生経験をもとに内面を表現するのだから、そこに正解不正解はない。「正解を考えてしまうと表現できない。だから本当に自分自身を解放することが、このような舞台づくりには重要だ」と。だからこそThe Flames の舞台は、観客にとって高齢者のイメージを大きく変える。ミラー氏の活動は、演劇を通して社会という輪を作り上げることにつながっているのではないだろうか。

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